第45話
それからは目まぐるしい日々だった。
ルーカス第一王子の呪いが解けたことと、ケクラン公爵令嬢セリーヌが婚約者となったことが正式に国民へ発表され、目出度いニュースに国中がお祝い一色で、城下では連日お祭り騒ぎとなった。
ルーカスは結婚式の日取りを通常より随分早い三か月後に決めてしまい、セリーヌは結婚準備に追われた。慌ただしく過ぎる日々の中で、ルーカスは毎日必ずセリーヌに会いに来た。
一方ステファンは、辺境にある騎士団への出向を自ら志願したと言う。辺境は国防の要であり、国の平和を守る重要な場所だ。そして辺境へ出向すると言うことは、王位継承を放棄する意味合いも含まれていた。
「本当に見送るの?」
ステファンが旅立つ日、セリーヌは王族専用であるプライベートスペースの出入口で彼を待っていた。隣に立つルーカスは不機嫌さを隠そうともせず眉を寄せてそう言った。
「はい」
「見送らなくて良いのに」
「そういう訳にはいきません」
セリーヌがルーカスを宥めているところで懐かしい声が耳に届いた。
「兄上、セリーヌ。来てくれたのか」
「ステファン様」
「二人とも忙しい中ありがとう」
快活にそう言ったステファンは幼い頃と同じ、優しい第二王子の笑顔を見せた。セリーヌの胸はじくりと痛んだ。彼は確かに自分を傷つけた。酷い態度を取り、セリーヌを蔑んだ言葉ばかりぶつけてきた。だけど……。
「セリーヌ。そんな顔しないで」
「……はい」
彼の気持ちに、不安に、自分は何も気付けなかった。自分と同じようにステファンだって傷ついていただろう。婚約継続が出来なかったのは、ステファンだけが悪いとはもう思わなかった。ルーカスを選んだことに後悔は全く無い。だけど、ステファンに辺境行きという進路を選ばせ、彼の将来を大きく変えてしまったことをどうしても後ろめたく思ってしまう。そんなセリーヌの考えを察したように、ステファンは口を開いた。
「セリーヌ。俺は嫌々行く訳じゃない。兄上が王位を継承することが決まったら、どこか騎士団に入りたいと昔から考えていた。元々王位に興味は無かったからな」
「そう、なのですか?」
「ステファンは昔から武道に長けていたからな」
「俺を無理矢理担ぎ出そうとするような奴らから、やっと離れられるんだ。ほっとしているくらいだよ」
ルーカスが不機嫌な顔のまま呟くのを見て、ステファンは頷き目を細めた。
セリーヌはステファンが武道が得意だったことすら知らなかった。いや、知ろうとしなかった。二人の婚約には、ステファンにもセリーヌにも多くの反省が溢れていた。
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