第43話


「へ……?」



 悲しそうに見つめるルーカスをセリーヌは信じられない想いで見ていた。



「幼い頃から、ずっとセリーヌだけは見えていた。理由が分からず不思議だったけど、何にも見えない世界の中でセリーヌだけはしっかりと見ることができた。最初は妄想かとも考えたけれど、他の人にその日着ていたセリーヌのドレスだとか髪飾りを確認して、僕の見ているセリーヌと相違ないことが分かって本当に見えているのだと確信した。……目が見えるようになったあの日、見ている通りのセリーヌだと再確認出来て少しだけ安心したけどね」


 呆気に取られているセリーヌへルーカスは言葉を続けた。



「だけど、それを誰かに伝えたらきっと……呪いを解くためだと言ってセリーヌの自由を奪うだろうと思い、誰にも言えなかった。無理矢理婚約させるとか、無理矢理僕の傍に置くとか、ね。僕はそれが恐ろしかった。そんなことをしてセリーヌに嫌われたくなかったんだ」



「そんな……」




「セリーヌ。ずっと見えていたよ。艶やかな赤髪も、涼し気な目元も、可愛らしいソバカスも、どれも君の魅力でしかないよ。可愛くて可愛くて堪らない」



「ルーカス、さま……」



「君の可愛い笑顔を見ているだけで癒されるし、怒った顔だって僕しか見られないんだと嬉しくなる。セリーヌはどんな表情でも可愛いんだ」



「……っ」



「ねぇ、セリーヌ。何にも見えない世界で、君だけが僕の希望だったんだ」




 ルーカスがなぜセリーヌだけ見えていたのか理由は分からない。何よりセリーヌからすれば信じる証拠がない。だがセリーヌはどうしてかそれを疑うことは無かった。






『分かるよ。目は見えなくても、セリーヌだけは分かるんだ』



 ステファンに婚約解消を投げ掛け、ルーカスの離宮に迷い込んだあの日、声すら出していなかったのに彼はすぐセリーヌに気付いてくれた。




『言っただろう、目は見えなくてもセリーヌのことは分かるんだよ』



 彼のプロポーズに頷いただけのセリーヌの答えを、ルーカスは大喜びしてくれた。




『些細な事なんかじゃないよ。セリーヌの事は全て大事だから』



 セリーヌの小さな火傷に触れることなく気付き、心配し火傷を隠したことを怒ってくれた。





 彼は愛してくれていたのだ。セリーヌの容姿を知っていても。宝物のように大事に触れ、甘い言葉を惜しみなく贈ってくれた。



 彼は愛してくれていたのだ。セリーヌを。セリーヌだけを。



 彼は愛してくれていたのだ。セリーヌの容姿ごと、セリーヌの全てを。





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