第41話




「セリーヌ様」



「……ジェイミー」



 またジェイミーから名を呼ばれ、セリーヌは縋るように彼女の名を呟いた。ジェイミーは困った顔で息を吐いた後でしゃがみ込みセリーヌの手に自身のそれを重ねた。



「セリーヌ様にお伝えしたいことは色々とありますが」



「……ええ」



「取り敢えず、セリーヌ様のお気持ちを考えてみるのが宜しいかと」



「私の、気持ち?」



「はい。殿下達の想いや考えはどうだって良いのです」



「そんな……」



 眉間に皺を寄せたセリーヌへジェイミーは大きく首を振った。



「どうだって良いのですよ。好きなくせに傷つける人や、長々と好きだったくせに想いを告げなかった人の気持ち等優先しなくて良いのです。セリーヌ様のお気持ちを優先して良いのです。旦那様だってそうお考えでしょう」



「だけど私の気持ちって……」



「セリーヌ様がどうされたいか、誰を好きなのか、ということです」



「好き……」




 セリーヌはずっと自分の好意というものと向き合って来なかった。急に冷たくなったステファンから心を守るためだろう。随分と長い間彼に対して心を無にするよう徹底していた。ルーカスが婚約者となった後は、彼から沢山の甘い言葉を貰ったが自分自身が彼に対してどう想っているのかセリーヌは未だに分かっていない。


 侍女の言葉に戸惑いを隠せないセリーヌへ、ジェイミーはもう一度息を吐くと口を開いた。




「では、セリーヌ様。もしあのクソ拗らせ……ステファン殿下が目が見えなかったとして、エスコートの度にお尻を触られたらどう思いますか?」



「へ?!どうって……」



「ルーカス殿下と同じように、不快な思いは全くありませんか?」



「それは……」



 ルーカスがエスコートの度にお尻を触ることでセリーヌは毎回怒っていた。淑女とは言えない大声を上げ、きつく彼の手を抓った。だけどそれは恥ずかしいからで……それに……。



「……ルーカス様はそうすることでわざと私を怒らせていたの。揶揄っている時もあれば、仲直りできるようなきっかけを作ってくれた時もあって。きっと……上手く感情表現できない私がそれをできる時間を作ってくれた……」




「そこまで分かっているのであれば、もう答えは出ているかと」



 ジェイミーはそう言うと優しく微笑み立ち上がった。




「これ以上は我慢の限界のようですので」



 ジェイミーが廊下に出て少しすると、すっかり憔悴した彼が現れた。言うまでもなくジェイミーは「十五分ですよ」と言い添えて退室した。



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