第39話
「そ、そんな……」
顔を青くし、瞠目していると、ステファンが悲しそうに頷いた。
「信じられなくて当然だ。俺は最低の婚約者だったから。だけど、ずっと愛していたし、今も愛しているんだ」
「ど、うして……」
あんなにも酷い言葉ばかり投げつけてきた癖に、今になって愛を囁くのか。混乱したセリーヌは言葉を上手く発せないでいた。
「混乱させて済まない……言い訳を聞いてくれるか」
聞くのが怖い。だけど、ずっと知りたかった。なぜステファンが変わってしまったのか。どうしてセリーヌに酷い言葉ばかり掛けるのか。
セリーヌが恐々と頷くと、ステファンは「ありがとう」と弱弱しく微笑み話し始めた。
「幼い頃、セリーヌと会ってすぐにセリーヌを好きになった。だけど、兄上もセリーヌを好きだと気付いたんだ……俺は慌てて父上にセリーヌとの婚約を強請った」
ルーカスが話していた内容と重なる部分がある。セリーヌは小さく頷いた。
「セリーヌと婚約してからもずっと不安だった。セリーヌは俺なんかより兄上が良かったんじゃないかって」
「そんなこと……」
ステファンがそんなことを考えているなんて微塵も気付かなかった。話してくれたら、彼の不安を消せただろうか。彼との関係も違っただろうか。考えても仕方のないことをセリーヌはつい考えてしまう。
「俺はセリーヌが好きで堪らなくて、だけどセリーヌは王命で婚約してくれただけで俺と同じように好きでは無くて。それがもどかしくて、苦しくて、セリーヌに八つ当たりしていた。それがどんどんエスカレートして、あんな酷い言葉ばかり……」
「ステファン様……」
ステファンはずっと不安で、だけどそれを誰にも言えないままセリーヌに八つ当たりする形で不安を何とかしようと必死だったのだ。曲がりなりにも十年一緒にいたのだ。彼の王族としての重圧や、ルーカスや国王陛下との不安定な関係性など様々な要因が複雑に絡み合って、不安が増長していったのだろうと察せられた。
「セリーヌとの婚約が解消されて、どれほど後悔したか分からない」
ステファンは一呼吸置き、そして懇願した。
「今更なことは分かっている。だけど、セリーヌ、どうかもう一度考えて貰えないだろうか。俺の婚約者に戻ってほしい。これからは心を入れ替えて、ずっと君を大切にするから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます