第37話
ルーカスが屍と化していた頃、セリーヌの屋敷には招かれざる客が来ていた。
「……何だか騒がしいわね」
ベッドに横になったセリーヌは、傍らで甲斐甲斐しく世話を焼くジェイミーにそう声を掛けた。部屋の外が騒がしく、時折バタバタと公爵家には似つかわしくない大きな物音まで聞こえてくる。
「そうですね……少し様子を見てきます」
ジェイミーが眉間に皺を寄せ、扉まで向かうとジェイミーが扉を開ける前にバタン、と大きな音を立てて扉が開いた。
「……っ、セリーヌ」
呼吸を荒げ、額に汗を滲ませて無理矢理セリーヌの部屋に押し入ってきたのは元婚約者のステファン第二王子だった。
「ステファン、様……」
目を丸くし呆気に取られたセリーヌは言葉が出てこない。ステファンの後ろには多くの護衛達がおり、顔を真っ青にしている。ルーカスから付けられた護衛達と言えど、ステファンを無理矢理追い返すことはできなかった筈だ。言葉で説得を試みたが、ステファンが強行突破してきたというところだろう。
「こ、このクソ」
「ジェイミー!」
セリーヌは慌ててジェイミーの暴言を制した。既に『クソ』まで言ってしまっているので少々制するのが遅いように思えるが。
彼女の同級生でもあるルーカスならまだしも、ステファンに暴言を吐こうものなら不敬罪で捕まってしまうかもしれない。特に冷徹なステファンなら何の慈悲も無くそうするだろうとセリーヌは確信し、ジェイミーに向かって首を振った。悔しそうにしている彼女には悪いが、大事な侍女を守る使命がセリーヌにはあるのだ。
「……ステファン様。このような格好で申し訳ありません。療養中だったもので……」
「……いや、こちらこそ無理矢理来て済まない」
セリーヌは再び目を丸くした。ステファンの謝罪など、もう何年も聞いていない。しかも形式的な謝罪などでは無く、少なくともセリーヌの目には彼は真摯に謝っているように見える。深く頭を下げる彼の姿にセリーヌは慌てた。
「ステファン様、どうか頭をお上げになって下さいませ」
「……ああ」
「ええと……ステファン様は何故こちらへ?」
ステファンは暫く黙ったまま、思い詰めた顔でセリーヌを見つめた後、口を開いた。
「セリーヌ。どうか話をさせて欲しい……頼む」
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