第33話


 翌日。すっかり体調の良くなったセリーヌだが、ジェイミーの命により未だにベッドの住人だった。退屈しのぎに読書や刺繍に取り掛かるが、考え事が多すぎるせいで上手く集中できない。横になりぼんやりと天井を見つめていたところで、ノックの音と共に不機嫌なジェイミーの声が響いた。



「セリーヌ様。殿下がお見えです」



「……え?」



 目を丸くし固まっていると、ジェイミーの後ろから色とりどりの大きな花束を両手に抱えたルーカスが現れた。



「やぁ、セリーヌ」



「ル、ルーカス様!も、申し訳ありませんが、そ、その身支度も整えておりませんので……」



「私もそうお伝えしたのですが」



 ジェイミーが遠慮なく大きな溜め息を吐くが、ルーカスは気にも留めない。



「だって僕は見えないのだから必要ないよ。体調を崩しているセリーヌに身支度で疲れてほしくないしね」



「疲れてほしくないのなら、殿下に一番来てほしくないんですがねぇ」



「ちょっとジェイミー!」



 セリーヌは咎めるようにジェイミーの名を呼んだ。ジェイミーとルーカスが学生時代同級生だったとは聞いているが、それでも不敬な発言には変わりない……例えジェイミーの言葉がセリーヌの本心だったとしても。



「いや、セリーヌ。ジェイミーを叱る必要はないよ。ジェイミーの言う通りなんだ……だけど、どうしてもセリーヌに会いたくて無理を言って通してもらったんだ。ごめんね」



「そ、そんな、ルーカス様」



 甘い言葉に頬を染めるセリーヌと熱い眼差しで彼女を見つめるルーカスに胸焼けしながらジェイミーはうんざりしたように首を振ると「殿下、十五分ですよ。それ以上はセリーヌ様の負担になりますので」と脅すような声色で告げた。



「ああ。ジェイミー、ありがとう」


 ルーカスの言葉ににこりともせずジェイミーはルーカスの持参した花束を受け取ってから退室し、部屋にはセリーヌとルーカスの二人きりになった。ルーカスはベッドサイドの椅子に腰掛けると、ベッドから体を起こしたセリーヌの手に触れた。



「起き上がっていて辛くないかな?」



「ええ。今日は調子も戻って、読書や刺繍をしていたくらいです。ご心配おかけして申し訳ありません」


 セリーヌの謝罪にルーカスは悲しげに目を伏せた。



「セリーヌ、謝らないで」



「ですが……」



「大事な婚約者なんだ、心配させてほしい」



「ルーカス、さま……」



「僕の方こそごめん」



「へ……?」



 ルーカスの謝罪にセリーヌは首を傾げた。ルーカスは眉を寄せ、触れていたセリーヌの手をぎゅっと握り口を開いた。



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