第31話


 ダミアンはくすくすと笑った後、言葉を続けた。



「まぁ、それは半分冗談だけど」




「……」



 半分でも本気なら至極迷惑だ。この男は人を腹立たせるのが本当に上手い。ジェイミーがぎりぎりと食いしばっている様子さえ楽しんでいる彼が憎らしくて堪らない。



「まぁ、それだけじゃなくて。ステファン殿下がね……」



 漸くここからがジェイミーの聞きたかったことだ。ここに辿り着くまで随分と掛かったものだ。



「あのクソ拗らせ王子がどうしたのですか?」



「まだセリーヌ様を諦められないみたいでね。ルーカス殿下とセリーヌ様が婚約して二週間経つけど、毎日陛下へセリーヌ様を自分の婚約者に戻してほしいと頼み込んでいるようだ」



「まぁ……そうでしょうね」



 ジェイミーは呆れ切って大きな溜め息を吐いた。あのクソ拗らせ王子……ステファンが、セリーヌを想う余り上手く接することができていないことはジェイミーもよく分かっていた。彼の執着心からすぐにはセリーヌを諦めきれないだろうと推測できた。




「ですが、それは想定内では?」



「うん、簡単には諦めないとは思ってたよ。だけど……」



 ダミアンは言葉を切り、今までと打って変わって真面目な瞳で語り出した。




「そろそろセリーヌ様に接触してくるかもしれない。何か理由がある訳じゃないけど、ステファン殿下の様子を見ていたらそう思うんだ……ルーカス殿下も同じように考えて、公爵家の中まで護衛させてほしいとセリーヌ様の御父上に頼み込んだんだ」



「そういうことでしたか……」



 確かに、これまでのステファンならプライドが邪魔をしてセリーヌに会いに来ることはしないだろう。だが、婚約を解消されなりふり構っていられない今のステファンなら十分有り得ることだ。



「ジェイミーも何かあればどんな小さなことでも教えてくれ」



「……分かりました」



 いつも揶揄ってばかりで、しつこくふざけたことを言い続けてこちらを怒らせるくせに。偶に仕事への真摯さや殿下への忠心を垣間見せる。



 この男の、そういうところが大嫌いだった。



 ジェイミーは長居は無用とばかりにすたこらさっさと退室しセリーヌが待つ公爵家へ向かった。背中に感じる悪寒には気付かない振りをして。







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