第30話
「ジェイミー」
甘く蕩けそうな瞳で見つめるダミアンに凍り付くほど冷たい視線を送る。だがダミアンには効果は無く、ジェイミーに会えたことをただただ喜んでいた。
「どうしたの?伝令なら少し前に来ていたけど、もしかして俺に会いに……」
「そんな訳無いの分かっていて聞いていますよね?」
きりりと目を吊り上げるとダミアンは満足そうに笑った。「護衛のことを聞きに来たのだろう?」と、無意味にジェイミーの耳元で囁くので鳥肌が立つ。睨もうか一発殴ろうか思案したが、何をしてもこの男を喜ばせるだけだと溜め息を吐き無視するだけにした。
セリーヌは、ルーカスから沢山の護衛を付けられている。だがこれまでは王宮までの往復と王宮内の護衛だけだった。セリーヌもこれほど護衛が増やされて不思議そうにはしていたが、王宮内の護衛の人数はルーカスの管理下だろうと特に尋ねることはしなかった。
だが昨夜から、公爵家の敷地内の警護までルーカスの付けた護衛達も加わると、セリーヌの父である公爵から聞いたジェイミーは不審に思った。公爵は特に理由を説明しなかったが、護衛を増やすと言うことは普通に考えれば良くないことが差し迫っているからだ。
「殿下は、婚約してすぐの頃にはもう公爵家の敷地内まで警護させたいと言っていたんだよ」
「え?」
「殿下は心配性だからね。愛するセリーヌ様のことになると過保護になるんだ」
「ああ、それは」
分かります、と小さく頷くとダミアンは美しく微笑んだ。この容姿で王子の側近なら縁談も引く手あまただろうに、何故自分に執着するのだろう。ジェイミーがうんざりしたように息を吐くとダミアンはまた笑った。
「ジェイミーが何を考えているかは後から聞くとして……兎に角、殿下は公爵家の中でも護衛を付けたいと言った。だけど俺が止めたんだ」
「まぁ、少しやり過ぎですからね」
公爵家にだって護衛は居る。敷地内までルーカスの護衛を配置したいと言われても公爵から許可が下りなかったかもしれない。ジェイミーがそう納得しているとダミアンは頭を振った。
「いや、ジェイミーの近くに男を増やしたくなかったんだ」
「はぁっ?!」
「だけど、昨日セリーヌ様のクッキーを持って来た時に殿下の護衛達とも顔を合わせただろう?だから公爵家の中で警護してもいいかなって。彼らにはしっかり牽制しておいたしね」
ああ、もう、この男は。馬鹿じゃないのか……元々知ってはいたが大馬鹿野郎だ。今すぐボコボコにしてやりたい。ジェイミーの大事なセリーヌの警護の話だと言うのに、そんな下らない理由で判断したなんて本当に許せない……だがこの男と話していると話が脇道に逸れてばかりでちっとも進まない。ジェイミーは突っ込みと暴力を諦め、ダミアンに次の言葉を促した。
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