第28話
自室のベッドに入るとセリーヌは小さく溜め息を吐いた。今日は色々なことが起こり過ぎて、もう日付も変わる時間だと言うのに目が冴えてしまっている。
ルーカスに掛けられた盲目の呪いが解けるかもしれないこと。
ルーカスはセリーヌを想い、婚約者として望んでくれたこと。
あの歪な形のクッキーを美味しいと食べてくれたこと。
……そして、あともう少しで彼と口づけをするところだったこと。
「……っ」
全身が一気に熱を持ち、慌てて頭まで毛布を被る。恥ずかしすぎて、明日どんな顔をして会ったら良いのか分からない。
「……呪いが解けるかもしれない、って」
熱くなった身体を冷ますため、他のことを考えようとセリーヌは気になっていたもう一つをぽつりと呟いた。
本当は喜ぶべきことなのだ。有能なルーカスの目が見えるようになれば、きっと国の為になるだろう。立派な次期国王として素晴らしい手腕を発揮する筈だ。それに……。
幼いころから優しくしてくれた。
ステファンからセリーヌを救ってくれた。
セリーヌを想い、婚約してからも大切にしてくれた。
その婚約者の呪いが解けるなんて、諸手を挙げて喜ばなければならないのだ。国政を抜きにしても、嬉しく思うべきだ。……だが、セリーヌの心には暗い影が落ちていた。
「きっと、がっかりされるわね」
彼が優しいのは、自分の容姿が見えないからだ。目が見えるようになればセリーヌの容姿に落胆し他の美しい女性を望むだろう。長年一緒にいたステファンのように彼も自分を嫌うようになるに決まっている。
「……呪いなんて、解けなければいいのに」
セリーヌは自分の言葉にハッとすると大きく首を振った。なんて恐ろしいことを考えてしまったのだろう。だが、そのどろどろとした仄暗い想いが確かに自分の中にあると知り、自身へ絶望した。
「ルーカス、さま」
いつか呪いが解けてしまったら、ルーカスの隣にはいられない。今日のように触れることも無いだろう。その日を思うと涙が零れ落ちた。
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