第27話
「どうして仰って下さらなかったのですか?!」
帰りの馬車の中、ジェイミーは荒ぶっていた。あのヘタレ王子からセクハラを受けていたことをもっと早く知っていたら、すぐにボコボコにした言うのに……勿論、物理的に。一方セリーヌはと言うと、ジェイミーがいくら雷を落としてもキョトンとしていた。
「だって、殿下は目が見えないのよ?エスコートでの手の位置がずれても不思議じゃないでしょう?」
「目が見えないと言っても……」
ジェイミーは苦々しい表情で大きく息を吐いた。
目が見えないからエスコートで手の位置がずれる、ということはあるかもしれない。
だが、目が見えないからエスコートで毎回尻を触る、ということは有り得ない。誰が考えても分かることだ。
だがセリーヌはルーカスの言葉を信じている。勿論少しは疑う部分はあるだろが、それでもルーカスの主張の大部分を信じている。それは幼い頃の関係性や、ステファン王子から助けてくれたという信頼感から来るものもあるだろう。しかし、それだけではない。
「セリーヌ様はお美しいのですから、殿方との距離感には気を付けていただかないと」
「ジェイミー、気を遣ってくれてありがとう。だけど、私の見た目が魅力的でないことは私が一番分かっているのよ」
……これは謙遜ではない。セリーヌは本気でそう思っているのだ。あのクソ拗らせ王子……ステファンのせいで。
ステファンの暴言は、セリーヌの心に蓄積し蝕んでいった。時の経過とともに、セリーヌは自分の見た目が悪いものだと信じて疑わなくなった。周りの家族や友人、使用人たちの誉め言葉を否定し続けた。
ステファンが揶揄した、セリーヌの赤毛は艶やかで女神のように美しい。
ステファンが揶揄した、セリーヌの一重瞼は彼女の色気を際立たせる。
ステファンが揶揄した、セリーヌのそばかすは艶やかで色気のある彼女の中の可愛らしさを演出する。
何も卑下することの無い、誰が見ても目を惹かれる美しい令嬢だと言うのに、セリーヌがそれを信じることは無い。
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