第24話
「ジェイミー。久しぶりじゃないか。」
一世一代の告白の途中に割り込まれたと言うのに、ルーカスは優しくジェイミーへ声を掛けた。
「お久しぶりでございます。ヘタレ王子殿下。」
「ヘタレ……?」
「よくもまぁ、お嬢様へ碌に気持ちも伝えられないヘタレ王子の癖にセクハラだけは一人前にかましてくれましたね。」
「うっ……!」
ルーカスは呆気に取られているが、セリーヌは別の事で頭がいっぱいでジェイミーの不敬まみれの発言に気付いていない。羞恥と恐怖で震えているルーカスのことも、だ。
「ジェイミー。来てくれたってことは……!」
「お嬢様。もう遅いし帰りますよ。」
ジェイミーの言う通り、いつもの帰宅時間を過ぎていた。一日で色々なことが有り過ぎたのだ。
火傷を隠してルーカスに見つかったこと、ルーカスの呪いが解けるかもしれないこと、ルーカスからの告白。
また、護衛達の密談やジェイミーによるダミアンへの取り調べなども並行して起きており、時間があっという間に過ぎてしまっていた。
「時間が遅くなっているのは分かってるの。だけど、そのバスケット……。」
セリーヌのたまにしかない強請りにジェイミーは弱い。大きな溜め息をついて、バスケットを手渡した。震えの収まったルーカスがセリーヌへ尋ねる。
「この香りは、クッキー?」
「はい。」
ジェイミーはセリーヌの専属侍女だ。普通なら王城にセリーヌが行く時同行するものだ。だが、ジェイミーはのっぴきならない理由からそれを免除して貰っていた。有能な彼女だから許されていることだった。
そんな彼女が何故ルーカスの離宮に現れたのか。それはこのクッキーを届ける為だった。
人間どころか腹を空かせた動物も食べないような奇跡の物体……セリーヌのクッキーだが、昨夜あれ程失敗したのにお終いとはならなかった。実は今日もルーカスに会いに行くギリギリまで作っていたセリーヌは、最後のクッキーをオーブンに入れた所でタイムアップとなった。
これが焼き上がるまでは出発しないと駄々を捏ね始めたセリーヌを散々叱り付けた後、上手くいったら後から届けるとジェイミーは約束したのだ。
「言っておきますが、王宮料理人による最高級スイーツを食べ慣れているお二人にはハッキリ言って不味いと思います……ですが、お腹を壊さない程度になったので持参しました。」
ジェイミーによる純度100%の毒が込められた説明も、セリーヌとルーカスには届いていない。目の前のクッキーに胸を高鳴らせるのに忙しいからだ。一方、ジェイミーの説明がしっかりと届いたダミアンや護衛達は王族に危険物の可能性があるものを食べさせて良いのか震えていた。
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