第23話



 時は少し戻り、応接室では……。



「セリーヌ……すまない。」



「ル、ルーカス様?」



 二人きりの部屋でルーカスに深々と頭を下げられセリーヌは戸惑った。



「……セリーヌに気持ちが伝わっていると思って、言葉にするのを疎かにしてしまっていた。」



「気持ち?」



「セリーヌは、どうして僕がセリーヌと婚約を結んだと思っていたの?」



「それは……。」



 どうしてルーカスが自分と婚約を結んだのか、ずっと不思議だった。ステファンに嫌われている自分があまりに気の毒だったのか、それとも王位継承権の為に公爵家の後ろ盾が欲しいのかな、というくらいの認識だった。



 セリーヌがぽつりぽつりとそう伝えるとルーカスの顔色はみるみる悪くなり、セリーヌを強く抱き寄せた。




「ルーカス様?」



「ごめん……ごめんね、セリーヌ。」



「いえ……。」



「セリーヌ。聞いて欲しい。」



 ルーカスは腕の力を緩め、セリーヌの膝の上に乗せられた手を優しく握った。




「……昔からずっと好きだったんだ。」



「え……。」



「王位とか権力とか何にもいらないよ。僕はずっとセリーヌだけが必要なんだ。セリーヌが欲しくて婚約をお願いした。」



「そ、そんな……。」



 セリーヌは目を見開いた。……あんなにセクハラを受けて、スキンシップされ、甘い言葉を吐かれて、どうして気付かないのか。



 ルーカスの使用人達も公爵家の護衛も、何なら三年会っていなかったジェイミーだってルーカスの想いに気付いていたのに、だ。



 だが、セリーヌは長い間ステファンに見た目のことでケチをつけられており、まさか自分を好きになる人なんていないと思い込んでいる。



 そして、この類の思い込みはなかなか払拭することが出来ないものだ。




(((((殿下がんばれー!!)))))



 ダミアンに可愛いジェイミーを連れて行かれて暇になった護衛達は、今度は盗み聞きを始めていた。




「幼い頃、セリーヌと婚約したいと思っていた。だが、目の見えない僕と婚約を結ぶなんてセリーヌは嫌かと不安になって……そうこうしている内にステファンに先を越されてしまった。」




「嫌なんて、そんなこと……!」




 ルーカスは固い表情をやっと緩ませ、優しい笑顔を見せ頷いた。




「そうだね。セリーヌがそんなことで嫌なんていう筈ないのにね。」



 その声色があまりに優しく甘くて、セリーヌは思わず頬を染めた。



「セリーヌ……セリーヌは僕のこと……。」





(((((ドキドキ……!)))))






 護衛達が手に汗握り、二人の行く末を見守っていた瞬間。





 ダダダダダダダダダッ!!


 ダダダダダダダダダッ!!




 大きな足音にルーカスとセリーヌが顔を見合わせる。その時、バタン!と大きな音を立ててドアが開いた。




「お嬢様!帰りますよ!今すぐに!!」



「まぁ、ジェイミー?」



 セクハラヘタレ王子から主を救うべく、体育会系侍女ジェイミーが飛び込んで来た。






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