第22話


 ダミアンがジェイミーに会うのは学園を卒業して以来初めてだ。実に三年ぶりの再会になる……というより、ダミアンはジェイミーへ連絡を取っていたが、ジェイミーが仕事を理由に返事も碌にしていなかったのだ。



「ジェイミー。久しぶり。」



「ええ。お久しぶりです。そんなことより、先程のお話は?」



「そんなことって……。」



 目を吊り上げたジェイミーは怒っている猫のように可愛い。ついダミアンがそんなことを考えていると、護衛たちが今度は文字通りコソコソと話し始めた。



(あの子がセリーヌ様の侍女か?)



(いつも連れてこないな~と思ってたら、こんな可愛い子だったのかよ。)



(あの子に思いっきり抓られたいなぁ。)



(王族三人目!ビンゴ!)



(公爵家の使用人ってあんなに可愛い子がいるんだな。)



(なぁなぁ。今度公爵家の護衛達に頼んでコンパしてもらおうぜ!)



(うわ、サイコーじゃん!)



(結婚してぇ……。)




「おい。お前ら静かにしろ。」



 護衛達がピシリと固まる。ルーカスのことは言いたい放題させてくれたのに、ジェイミーが来た途端に冷たい声色で注意したダミアンを見て護衛達は全てを察した。



「ジェイミー、こちらは騒々しいから別の場所へ行こう。」



「ちょ、ちょっと!私はお嬢様のお尻の件を聞きたいだけなので場所はどこでも良いんです!」



「ちゃんと説明するから。」



 ジェイミーを引っ張るように連れ出すダミアン。



(((((ダミアン様、がんばれ~!!)))))



 ダミアンの背中を見送りながら、護衛達の心は一つになった。




◇◇◇◇




 別室にたどり着くと、「一体どういうことなんですか!」とジェイミーは痺れを切らし声を荒げた。ダミアンは必死に頭を回転させ言葉を探した。



 セリーヌが王城に来る時、ジェイミーは付いてこない。頑なに付いてこない。その理由はダミアンが一番よく分かっているが……セリーヌに付いてくるのは公爵家の護衛だけだ。最近ではルーカスが付けた護衛達もいるが、公爵家の護衛も欠けることは無い。



 護衛の役割は、不審人物や危険人物の排除、またその可能性がある者との接触を防ぐことだ。


 公爵家の護衛達が主である公爵にセリーヌの一日の様子を報告する際、「不審人物との接触はありません。」と報告することはあるだろうが、「お嬢様は殿下にお尻を触られていました。」なんて報告するだろうか。いや、するはずがない。


 勿論セリーヌ本人が「今日も殿下にお尻を触られました。」なんて公爵へ報告するはずがない。そのため、公爵家ではルーカスによるセクハラ行為を把握していなかったのだ。







「あのヘタレ王子……潰す……!あのクソ拗らせ王子と一緒に潰す!!!」



「ジェイミー、駄目!言葉にするだけで罪になるから!」



 ダミアンは結局ありのままを伝えた。ありのまま伝えるしか無かったのだ。




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