第16話
小さく掠れた声で語った後ぽろぽろと涙を零すセリーヌを、ルーカスは堪らず抱き寄せた。そしてセリーヌの包帯だらけの手を宝物のように優しく撫でた。
「セリーヌ、ありがとう。僕の為に頑張ってくれて。」
「で、でも……。」
結局最後のクッキーも失敗してしまった。あんなにジェイミーが手伝ってくれたのに。今日何も持って来れなかったことを怖々詫びるがルーカスは首を振った。
「僕を想って作ってくれたことが何より嬉しいんだよ。」
「ルーカス様……。私、もっと練習しますわ。」
「うん、待ってるよ。でも急がなくていいからね。何年でも喜んで待つよ。」
『何年でも待つ』なんて、そんなに上達に時間がかかると思っているのかといつものセリーヌだったら捉えただろう。だが、ルーカスのその言葉は何年後でもずっと一緒にいてくれる約束のように思えて、セリーヌの胸はじんわりと温かくなり頬が緩んだ。
ルーカスはセリーヌを優しく抱き締めたまま、セリーヌの涙を拭った。そして心配そうにセリーヌの手を何度も撫で「まだ痛い?」と尋ねた。
「大丈夫です。ほんの少し火傷しただけなんです。痛くありません。」
小さな火傷だったが、火傷に気付いたジェイミーが大慌てで心配し包帯をぐるぐる巻いたので大げさなものになってしまったのだ。そう説明するも、ルーカスの表情は晴れなかった。
「小さな火傷でも、セリーヌが痛い思いをしたと思うと心配なんだ。」
「次からは気を付けますわ。」
「うん。それに……隠されるともっと心配になる。」
「う……。」
ルーカスはセリーヌが今まで見たことのない悲しそうな表情で言葉を続けた。
「僕の目が見えないせいで、セリーヌが痛い思いをしても気付けないかもしれない。セリーヌが苦しい状況に立たされていても気付けないかもしれない……僕はそれが酷く恐ろしいんだ。」
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