第14話


「……諦めが悪いな。」




「そうですね。ステファン様は未だに国王陛下にセリーヌ様をご自分の婚約者を戻して欲しいと訴えているようですから。」



 セリーヌが帰宅した後、ダミアンの報告を聞きルーカスは遠慮なく大きな溜息をついた。



「まぁ、すぐに諦める訳無いな。」



「はい。」



 セリーヌがステファンの婚約者だった頃、ステファンはセリーヌに辛く当たる癖にセリーヌとルーカスが挨拶を交わすだけで鬼のように睨んできた。ステファンがセリーヌを想っているのに、上手く関われないことは少なくともルーカスには丸分かりだった。




「それと、例の件の報告が上がっています。」



 ダミアンが報告書を読み上げる。ルーカスは先程帰ったばかりの婚約者へ想いを馳せた。






◇◇◇◇




「お嬢様。もう諦めてくださいませ。」



「う……。」



 セリーヌの専属侍女ジェイミーにハッキリそう言われ、セリーヌは肩を落とした。



「お嬢様にはお菓子作りのセンスが皆無なんですからもう諦めましょう。」



「う……。」



 セリーヌとジェイミーの前には炭と化したクッキーの残骸が小さな山を作っていた。



「大体、急にどうしたのですか。お菓子を作りたい、なんて。」



「そ、それは……。」



 セリーヌの脳裏には別れ際のルーカスの顔が浮かんでいた。仕事をしたくないと駄々を捏ねるルーカスだったが、実際にはとても優秀な王子だとセリーヌは知っている。



 民からの人望も厚く、困っている人に手を差し伸べる人だ。ステファンに嫌われ無下に扱われていた自分に手を差し伸べてくれたように。



 そんな彼に何かしたいと思い、公爵家に帰るとお菓子を作りたいと強請ったのだ。だが……。




「私ってこんなに不器用だったのね……。」



 王子妃教育やダンスのレッスン、語学、どれも要領良くしてきたセリーヌだったが、お菓子作りとは相性が悪いようだ。己の不甲斐無さにしょんぼりと目を伏せた。



「お嬢様。」



「ジェイミー、遅くまで付き合わせてごめんなさい。片付けるわ。」



「あと一度だけですよ。」



「ジェイミー?」



 いいの?と首を傾げると、ジェイミーはプンプンと怒りながら下準備を始めた。



「その代わり私の話をちゃんと聞いて下さいね!全部自分で作りたいのは分かりますが、今回は初めて作るのですから多少手伝わせて下さい。」



「ええ!ジェイミー、お願いします!」



 つっけんどんに言ったジェイミーをセリーヌはぎゅっと抱き締めた。「全く、お嬢様は……。」とぶつぶつ呟くジェイミーだが、セリーヌが新しい婚約者に大事にされていることを本当は誰よりも喜んでいた。






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