第12話



 兄へ対する大きなコンプレックス、それは徐々にセリーヌへの不満や苛立ちとして表出するようになった。それは、公の場で偶に会って他愛ない会話をするだけの二人への嫉妬もあった。




 また、原因は他にもあった。ステファンが何れ王位継承権を持つと信じる貴族の娘たちから、ステファンはアプローチを掛けられることも少なくない。公爵令嬢のセリーヌという婚約者がいるにも関わらず、その令嬢たちは臆することなくステファンへアタックしてきた。




 セリーヌを想うステファンが、他の令嬢に靡くことはない。だが、彼女たちの蜂蜜のように甘い言葉や華々しく着飾っている様子から、ステファンは徐々に不安を募らせた。甘い言葉を吐くこともなく、華美に着飾ることもないセリーヌは、自分のことを想っていないのではないか、と。




 最初は馬鹿げた考えだと思っていた。セリーヌは自分との婚約は政略的なものだと理解しているだろう。ステファンがここまでセリーヌへ恋焦がれているなんて夢にも思わないだろう。


 セリーヌがステファンへ甘い言葉を吐くことは無い。恋する乙女のようにめかしこむことも無い。だけど、ステファンを婚約者として大事にしてくれている。多忙な王子妃教育も不満を言うことなく頑張ってくれている。これ以上、彼女に何を望むと言うのか。




 そう何度も自身へ言い聞かせるのに、セリーヌへのどろどろとした感情は止められなかった。自分のことを好きではないのか、セリーヌも兄の方が良いのか、と。そうして、ステファンはセリーヌへ辛く当たるようになり、セリーヌもまたステファンに対して笑いかけることは無くなっていった。




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