第13話 (番外編)ちょっと本気で生きてみた
私が救世主となって5年。
この世界は徐々に混沌から解放されていた。
あともう少しで私の役目は終わるだろう。
私のこの力は、このためにあったのだと再確認するように右手の紋章を見つめていた。
『ミリア様、ちょっとよろしいでしょうか?』
私を探していたのか、アレスタが息を切らしながら声をかけてきた。
この先の洞窟に見たことがない魔法陣があるという。
ここは最北の地、クスタリオン。
もう、この旅が終わるだろうと安堵していた私にとって、余計な出来事は極力関わりたくなかった。
しかし、そうも言ってられない。
私の役目を果たそう。
魔法陣を目の前にすると、不思議と身体が熱くなった。
・・ーつっ・・。
身体じゃなかった、私の右手の紋章が焼けるように熱く、痛くなった。
私は苦痛に耐えきれず、その場にしゃがみこんでしまった。
アレスタがかなり心配している。
強い光りが私達を包み込んだ。
その時、見知らぬ男が魔法陣の中で横たわっていた。
とりあえず、男を介抱するために拠点としている街に戻った。
男の名前はヨウヘイと言った。
聞きなれない名前だ。
彼はこの世界の人間ではないといい、理解されないことに寂しさを感じていたようだが、性格は温和でよく笑っていた。
ヨウヘイの孤独感は理解できた。
私も持っている、救世主としての孤独。
彼と私はお互い孤独を持つ、似た者同士だと感じた。
ヨウヘイがこの世界の人間ではないということは、あの魔法陣は召喚魔法だったのだろう。
だが、なんのためにヨウヘイが召喚されたのだろうか。
彼の正体がなんだっていい、私がヨウヘイを好きになるまでに時間はかからなかった。
残りの旅は、ヨウヘイも同行させた。
彼はなんの力もなく、戦闘の補助も出来ない、普通の人間だった。
私は救世主としての最後の役目を終え、オーダルティアへ帰還した。
陛下に報告し、私はヨウヘイを元の世界へ返す手段を探すため、ヨウヘイと共にまた旅にでた。
二人きりの旅だ。
幼いアイナス様が、私がいなくなってしまうのではないかと心配していた。
2年程の旅で私はヨウヘイを元の世界へ返す魔法を開発した。
この時、私の心はすでに決まっていた。
陛下とオーダルティアの優秀な魔導士達が見守る中、私は転移魔法を起動した。
いつか、私の力が必要になった時、この国の人々が私を呼ぶことができるよう、仕組みを説明した。
『やはり、行ってしまわれるのですね。ミリア様』
陛下が寂しそうに呟いた。
アイナス様は泣いている。
私はアイナス様にかけより、頭に手を置き、こう伝えた。
「私はあなたが助けて欲しいと強く願うのならば、必ず戻ってきますよ」
そして、私はヨウヘイと共にヨウヘイの世界へ転移した。
この世界は地球といい、ヨウヘイの住んでいる国は日本といった。
私の世界にはないものが沢山あった。
そしてこの世界は何より、平和だった。
私の救世主としての力を使うことは全くなかった。
数年後、ヨウヘイとの間に娘が生まれた。
とても幸せで、孤独だった私が幸せを感じて涙した。
ヨウヘイも凄く喜んでくれた。
私は、私の居場所を見つけたと感じた。
娘には救世主の紋章が無かった。
私の力は遺伝しなかったようだ。
娘はすくすくと育ち、そして結婚した。
さらに、娘は子を授かった。
私が祖母となる。
救世主の頃には想像も出来なかった人生だった。
この幸せはずっと続くものだと信じていた。
だけど、罪無き人が理不尽な死を迎えるのはこの世界でも変わらなかった。
娘と娘の夫、さらには孫までもが交通事故に巻き込まれた。
私は急いで病院に向かった。
医者から全員が助かる見込みはないと告げられ、私は絶望した。
ヨウヘイは娘が結婚してすぐに他界した。
また、私は孤独になるのか。
しかも愛する娘と孫を失うという真の絶望の中で。
私は娘の手を強く握った。
神にもすがる思いで。
『・・お、お母さん・・・タツアキを、タツアキをお願い・・・・』
娘の最後の言葉に耳を傾けた。
『お、お母さん・・・お母さんならあの子を救うことができるよ・・・ね?』
娘は最後に笑顔で息を引き取った。
私は歯を食いしばり、孫の病室へ走った。
孫は今にも鼓動が止まりそうだった。
医者達に止められながらも私は孫の手を握った。
この力はこの子のために使おう。
たった3歳の子にこんな運命を背負わせてしまったとしても、この子は私が守ってみせると心に誓った。
翌日、右手に紋章が浮き上がったタツアキが目を覚ました。
『・・・ばぁば・・・、おやよう。』
言葉もつたないタツアキが満面の笑みで私を見た。
涙で前も見えなった。
だけど、目の前にいる小さな温もりはしっかり感じることができた。
ちょっと本気でいきてみた 番外編 完
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