第12話 ちょっと本気で生きてみることにした


盗賊を撃退し、数人ほど生け捕りすることも出来た。

これで情報を聞き出すことが出来るだろう。


この日は宴となった。

現実世界では人と関わることのなかった俺が、酒の場にいるなんてちょっと信じられなかった。


陽気に騒いでる町の連中から聖帝様!聖帝様!とはやし立てられた。


わるい気分じゃない。


今日はセルダールの町に泊まることにした。

活気あるこの町を好きになった。


そして、予想通りラキが夜這いに来た。

勘弁してくれ。



『聖帝様、あ、あたしのあんな所触っておいて、逃げないよな?』




だから、俺はどこもさわってないぞ。

人の話を聞かないやつだな。


上半身を脱いでラキがぐいぐい迫ってくる。

脱ぐとこいつの乳はそこそこいいサイズだった。

なにより形がいい。


だが、俺は拒んだ、自分自身への約束があるのだ。


俺はラキのしっぽを掴み、やめろと言って彼女を止めた。



『ひゃぃぃいいい』



お、あの可愛い声だ。



『ま、また触った』



なにぃ。

まさか、しっぽが原因だったのか。


どうやら虎人ウェアタイガー族の掟では、しっぽを掴むのは生涯の伴侶と決めた相手とかわす行為らしい。


異世界理不尽ルールなんて、俺は知らん。

俺はお母さんモードになって、ラキに自分を大切にしなさいとか色々説教した。


しゅんとしょげたラキがやっと分かってくれた。

やっと落ち着いてくれたと、ほっとした俺はテーブルにあった水を飲んだ。


だが、やられた。

意識が薄れていく。


よく朝、目が覚めると隣にラキが居た。

しかも全裸だ。

飲み水に何か盛られたな、こりゃ。



『聖帝さまぁ~。起きたのかぁ~』



こいつ酒臭い。


俺はラキを跳ね除け、飛行魔法で急ぎ王都へ戻った。

昨日、ラキが言っていたが、捕虜の尋問の後、王都へ報告に行くと言っていた。

なら、俺からは何も報告する必要はないな。


王都に戻ると、俺に気付いたティムが駆け寄ってきて、どこに行ってたんだと怒ってきた。

さっきまでラキといたせいか、ティムとの体形を比較してしまった。

俺はティムを見て、くすりと笑った。

ティムはそれを見て、また怒ってきたが軽くあしらった。



魔晶石強奪未遂から数日後、陛下の居る広間に呼ばれた。

陛下の前で片足をついて話しているのはラキだった。



あぁ、この前の事件の報告に来たのか。

ラキが警備長だったことをすっかり忘れていた。


ラキが俺に気付いた。



『せ、聖帝様、なんでここにいるんだよ』



う、説明めんどくせぇ。

アイナス、フィリア、マリオール、ティムが聖帝様って何?って顔でこっちを見ている。




『なんだよー、陛下アイナスと知り合いだったのか?』



こいつ、家臣のくせして呼び捨てかよ。




『一緒に寝てたのに、なんで急にいなくなっちゃうんだよ』



ばか、それを言うな。


ティム以外のアイナス、フィリア、マリオールが絶対睨むだろう。

って、ティムも俺を睨んでいた。


お前もかい。



ラキの報告によると、盗賊の正体は予想通り隣国の正規兵だった。

その隣国とは、東の国ジェルゲン。

ただ、なぜ魔晶石を狙ったのかまでの理由は分からなかったらしい。

捕虜になることも想定して、実行する奴らには詳しい情報を与えてないのだろう。



『アキ様、最初のお願いがございます』



陛下アイナスが改まって、俺に告げた。

内容はこうだ。


何故魔晶石を狙ったのか、その理由を東の国ジェルゲンに調査に行くこと。

救世主の存在を隠し、冒険者を装うこと。

冒険者らしくパーティーを組むこと。

早く、私と結婚すること。



「おい、アイナス。最後のお願いはおかしいだろ」




ちっというアイナスの舌打ちが聞こえた。


パーティーか。

冒険者ギルドで見つけるか。

だが、そうはいかないのはすぐにわかった。

4人が目を光らせて、こっちを凝視している。


フィリア、マリオール、ティム、ラキ。


こいつらで確定か。

ため息がでた。


だが、この国の警備は大丈夫だろうか。



『アキ様、この国の警備はお任せ下さい』




俺の懸念に気付いたのか、ヴァイパーが声をかけてくれた。

こいつは騎士長であり、かなりのイケメンだ。

一度手合わせしたが、この国最強だと言われるのも理解できた。



『陛下はこの身に変えてもお守りします』



おお、かっこいいこと言うな。



『黙れ、ゲスが』




アイナスが痛烈な言葉を放った。


アイナスは何故かヴァイパーを嫌っている。

ヴァイパーは目に涙を浮かべていた。



「了解したよ、陛下」




俺は片足をついて、アイナスに返事をした。

結婚以外を。


さて、ここからがホントのスタートだ。

まさか、俺が人の役に立つ日がくるなんてな。


出発の日、俺達は冒険者に見える服装に変えた。


最初のクエストは、東の国ジェルゲン。


城の門が開門したと同時に、両サイドに並ぶ4人のパーティーメンバーの背中を両手でぽんと押し、さぁ出発だと声をかけた。



ばあちゃん、俺、この世界で、少し本気で生きてみるよ。


第12話 完

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