第10話 クライマー

一度家で用事を済ませて、昼過ぎにまたバーに向かう。


「こんにちは」

いつも通りマスターに挨拶を済ませ中に入る。考えもなしにここに来てのんびりするのも習慣の一つになっている。手伝いをしたりバーの周りを飛び回ってみたり、暇潰し。


今日もそんなとこだろうと思い椅子に座ると、


「やあ少年、また会ったね」


これもこれからいつも通りになるんだろうか。今朝の任務をてなのか、彼女の距離感が縮まった気がする。


俺の肩を掴み、ぐっと顔を寄せて話掛けて来る。 距離感が縮まるのは構わないが、ひんやりとした機械の腕で肩を掴まれると怖いほうが勝つ。


「ゆ、ユキナさんも居たんですね」

「ここに居ないと君に会えないだろ」

再度だが、やけに距離が近い。俺の目をじっと見つめて、俺の手に彼女の手を重ねて言う。そんなに共闘で手応えが有ったのか。大したことしてない気もするが。


何と答えたら良いか分からず固まっていると、「家知ってるんだから家行けばいいのか。」と

恐ろしいことを言って、一人納得した様子でソファータイプの椅子に寝そべりだした。

自由な彼女を見て、ふととある疑問が頭をよぎる。

「誰かとリンクしたら、その後はどうするつもりなんですか?」

「ん~?特に決めてない」


またそれか。

「でも、一応やりたい事は有るかな。ヒルン、

“クライマー”って知ってる?私はそのクライマーになりたいんだけど」

「登山家?」

「うん。それも、間違っては無いんだけど、そうじゃなくて。リンク計画の被験者の中でそう言われる人達がいてね。彼らはリンクによって能力が格段に上がって、常人離れの強さになった。言わば“超越者”みたいな感じだね」


「へ~そんなのがあるんですね」

「え?興味なさすぎじゃない?もう少し食いついてくれると思ってたんだけど」


「まあまあ気になってますよ。クライマーってどうやったらなれるんですか?」

「リンク相手との相性とかかな。まあ被験体の元々のポテンシャルもあると思う。」


「じゃあリンクしてみないと分かんないって事ですか?」

「そうなるね」


となるとかなり難しい話だな。人生で一度きりのリンクで、なんていう不確定の条件を元に決まるわけだから。


クライマーと名前が付くだけに珍しい存在なんだろう。


「ユキナさんはクライマーに会った事あるんですか?」


昔のことを思い出すように、少し上の空間を見つめて彼女は話し出した。


一組ひとくみだけ。彼女達は電気を使ってた。何方どちらも十代ほどの少女のペアで、何年か前、私の仕事場に来てた。その時は年上に見えたから、今は私より少し上の女性になっているだろうね。」


この二人が、ユキナが言っていたリンク相手を探し始めたきっかけの人だろうか。


「二人共凄く人柄の良い人で、私にもすごく良くしてくれた。お姉さんみたいだった。二人は幼い頃からの親友らしくて、簡単には壊れないと一目でわかる仲の良さだった」


過去の記憶をさぐるように上を見ていた彼女が、ぱっと俺の方を向き、まるでヒーローショーを見た少年の様な輝いた目で話す。


「何よりね、かっこよかったんだ。一度だけあの二人の依頼に着いて行ったの。そこでは、二人が踊るように、ほとばしる電気が彼女達を飾る演出の様に、とにかく綺麗だった」

「クライマーは能力の練度が違うからだと思うんだけど、能力をまるで体の一部みたいに操るんだよね。あの自由な感じ、素敵だったなぁ」


それでね。と俺の目を見てはにかむような笑顔を作り、

「君と一緒に飛んだ時、自分自身がクライマーにったかのようなを感じたんだよ」

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