第9話 銃声


「大丈夫ですか?」

「この子は無事だよ。もちろん私も。

でさ、この子の腕の縄、ほどいてくれない?」

「この子連れて逃げ無いのは、縄が解けなかったから?!」

「縄を切る刃物とか持ってないし、私は不器用なんだ。しょうがないだろ」

しっかりしている人ではあるのだが、こういう抜けている所も結構有るんだよな。


「もう大丈夫だよ。今解いてあげるからじっとしててね」

少女は今にも目から溢れそうな涙をぐっと堪え、 ありがとうと礼を言う。とても不安だっただろうに。強い子だ。


「よし、解けた。さあ、お祖父じいさんのところへ行こう」

少女の手を取り、歩き出した。




―――パァン

「 危ないっ!」

考えるより前にユキナの方へ飛び出していた。まだ意識の有るやつがいたのか。敵の銃弾が彼女の方へ迫る。

先に歩き出した彼女は俺の十歩ほど先にいる。

間に合わない…!


―――ガキンッ

耳にさわる金属の着弾音がしたのは、彼女の後ろの鉄骨。


「安心して。私は風を操る。銃弾の軌道を変えるなんて簡単だよ」


俺を見ながら笑顔でそう答えると、彼女は俺に目配めくばせをし、少女の目を隠すよう伝える。俺が少女の目をおおうとそのまま腰の拳銃を抜き、一発。敵の眉間を見事に撃ち抜いた。


あっけらかんとしている俺の肩をぽんと叩き、「お疲れさん」と呟いたユキナは、そのまま少女をかかえ歩く。


ユキナの優しさに反応するように、少女も彼女の背中をぐっと掴んでいる。


彼女の戦いを見るのは始めてだったが、常々つねづねの所作に綺麗さを感じるものだった。




「おじいちゃん!!」

少女はようやく安心できたようで、ラルスを見た途端とたん声を上げて泣き、抱き着いた。ラルスも、 私のせいで不安にさせたと謝りながら涙を流し、少女を固く抱きしめる。


俺とユキナも一安心と見合って笑う。


突発的な共闘になったが、案外上手く行って良かったと思う。


泣いている二人が落ち着いてきたあたりで二人の元へ寄り、ユキナが少女の頭を良かったな、と撫でる。俺はラルスに「また何かあったらバーに来て下さい」と告げた。


ユキナと二人で飛び立つ。


これまた満足そうな顔をして飛ぶ彼女に冗談交じりな口振りで言う。

「弾避けれるなら言って下さいよ。本気で焦ったんですから」


「ごめんごめん。でもかっこよかったでしょ?」 

ユキナはそう言いながら無邪気な笑顔を見せる。 


「それに、君の可愛い反応も見れたしね。本気で庇おうとしてくれてて嬉しかったよ」

人の気も知らずに笑っている彼女を見ても、嫌な気が起きないのがなんだか悔しい。


「とにかく、どうでした?共闘してみて」

「う〜んあんまり分かんないけど違和感が無かったと言えばいいのかな?凄くやりやすかった」 


「俺もそんな感じでした。ユキナさんもそう思ってて良かったです」


「私はここら一旦でおいとまするよ」

またねと手を振る彼女に手を振り返し、帰路きろにつく。朝から仕事が入ったおかげで出来てないことも多いから、それを済ませてまたバーに行こう。

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