第8話 お待たせ。

「 いやー、格好良いね!そのスーツ」

ひらひらと舞うように飛んでいるユキナが言う。 今まで俺は鳥以外と共に飛んだことは無かったが、大好きな空を共有出来ている気がして気分が良い。


彼女は彼女自身も理解出来ない力で風を操るらしい。科学が魔法の様な域にまでなった今、最早信じられない話でもない。真っ白の羽根に包まれたその姿は、シロフクロウのようにも、妖精のようにも見える。


それと対象的に、大部分が藍色で、燕のように紅色のジェットで彩る俺のスーツ。自分で言うのもなんだが、地上から見ると、2色の鳥が共に飛んでいるようで、綺麗に見えそうだ。


彼女は落ち着きのある印象だったが、空の上ではとても楽しそうにしている。俺の周りをくるくると飛び回って、遊んでいる。俺もそれに同調し、蝶のつがいのように互いが互いの周りを飛ぶ。


スタッ、トッ―――ガチャ

「マスター!お待たせしました」

「・・・」

マスターは今回の依頼の要項が書かれた紙を差し出し、現場らしき場所の名前を指さした。

それはここから飛んで5分程の場所。


「ここに行けば依頼人が居るんですか」

マスターが頷くのと同時に、ユキナを促しまた飛び立つ。


依頼内容もほとんど無しに場所だけ伝えられたあたり、相当急ぎの案件あんけんなんだろう。出来るだけ早く行かないと。


辿り着いたのは大きなビルぐんの工事現場。金属の骨組みが立ち並びんでいる。


その端の方に一人の男性が座っている。

「ラルスさんですか?」

「あぁ、良かった、助かった。君があの月燕つきつばめかね」

ラルスというご老人は優しさと威厳いげんを持った声でそう言い、俺に右手を差し出した。六十代と見える彼のその手は、綺麗だがひんやりとしていた。


「すまないがさっそく本題に入らせてくれ。私の孫が誘拐され、この工事現場の跡地に捕らわれている。どうか彼女を助けて欲しい」


少し聞くと、彼は企業の社長らしく、工事が中止しているここをアジトとする盗賊に金目当てで孫娘まごむすめを誘拐された。という運びらしい。 


俺はユキナと顔を見合わせる。

「俺が敵の注意を引きます。その内に人質をお願いします」

「了解」

互いに頷くとそのまま真上に飛び立ち、状況を確認する。


いた。敵は建物の中心辺りにまとまって三十人ほど、銃を持っているのがほとんど。


一定の高さまで上昇し、敵に向かって急降下する。

「何だあれ?鳥か?、、、なっ!?」

一番手前にいる見張りらしき二人を斬り、そのまま敵の目に付きそうな柱に止まる。


「敵襲だ!撃て!」―バンッ―キンッ

こちらに気付いた途端、ライフルを乱射して来る。自らを翼で覆い、銃弾から身を守りつつ時間を稼ぐ。


「親玉はあいつかな。そんであの子が人質か」

一番奥側に大きな図体をして、覆面を被った男がいる。そのすぐ横に涙ぐむ小さな少女が椅子に結ばれている。


「そろそろいいかな」

柱から飛び、敵の頭上で銃弾を避けつつ旋回する。


「チェックメイト」

静かな優しい声。

そのすぐ後に、覆面ふくめん男の苦しい悲鳴が鳴った。


すぐさま降下し、地面スレスレの低空を滑るように飛びながら、二十人はいるであろう敵たちをぎ倒していく。


見える敵が居なくなったところで、辺りを見回す。もうユキナは人質を連れて出ていても良い筈だが、まだ人質は椅子に縛らたまま。



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