第11話 夢見

彼女はクライマーの強さに憧れたのではなく、ただ少女達が笑い過ごすに惹かれたのだ。


俺はクライマーの持つには興味がないから、クライマーについての話で特に思うところはなかった。


でも、彼女の望むものが強さではなく自由やたのしさだったのは共感と、どことない喜びを感じた。


俺は強くなりたいとはあまり思わない。空を飛ぶという力を与えられた身でこれを言うのは皮肉かもしれないが、俺は今の自分が好きだし、満足している。これ以上の力を望むより、 今ある幸せを享受きょうじゅするべきだと思う。 


友人と言える人も、大切な物も今まで何度もなくしてきた。皆が移り変わるのは当たり前のことだし、俺もいつ仕事で死ぬかわからない。


だから、今やりたいことをやり、話したい人と話し、幸せを感じて生きている。


ユキナもきっとそう思っているんだろう。


彼女がクライマーになれるかは分からないが、俺と同じような考えを持ち、愉しさを求める彼女には出来る限り手助けをしたいと、そう思った。


「クライマーになれるほどの相性の人ってどれくらい居るんでしょうね」

「それすらも分かんないくらい珍しいんだ。

動物のアルビノぐらい珍しいって聞いたことあるけど、被験体がただでさえ少ないのに、そんな確率じゃあそう簡単に現れないよね」


つまり狙ってるのはほぼ無理って訳か、憧れになるために努力じゃどうにもならないのは悲しいな。


「この人とリンクすれば効果が高いよって教えてくれたら良いのに。あの二人は“ただこの二人が良いと思った”って言ってたし」


「そう思えた人は今までいました?」

「いたら困ってないよ」

少しねた口調で言うと、わざとらしいため息と共にまたソファに崩れ落ちた。


「誰か探しましょうか?」

ここら辺に来てまだ日も浅いはずだし、出会いもまだまだ有るだろう。


「おぅおぅ君、それは本気で言ってる?」

食い付いているていだが、いつもより声が低い。まずい、怒らせてしまったか。


「ま、まあ、俺が合わないと思ったら…」


よくわかったなと言わんばかりの満足げな顔で俺を見て、「そうだね」と答え彼女はそのまま目を閉じた。バーの席で昼寝するのはどうかと思うが、まだ客が来るような時間でもないから許そう。


すやすやと寝息を立てる彼女。それを横目にただ座っている。





さっきの様子を見ると、まだ俺とのリンクの可能性があるということだった。


もし俺が彼女とリンクしたとしたら、それからどうするんだろう。彼女も俺と同様、傭兵だからそのまま二人で傭兵として働くんだろうが、拠点はどこなのかとう悩める点がいくつもある。


二人で各国を旅しながらっていうのもありだな。 


新しい事を考えるのはわくわくして良いが、まだ彼女は俺とリンクするなんて言ってないし、彼女の夢であるクライマーは、普通の子供である俺では無理な気がする。


まあ、ここは彼女にならってあまり考えずにいよう。

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