第3話 今営業中?

日光が差し、を覆う俺のまぶたにかかる。晴れている朝は良い。

鼻を抜ける爽やかな風の香りが俺の目を覚まし、 綺麗な空が気分を上げる。


一つ大きな伸びをして、キッチンへ向かう。朝はコーヒーを飲むのが日課だ。一日の始まりの合図になっている。


家のベランダに出て、空を眺める。ここは都市近郊のマンションの最上階。まだ十六歳といえど、傭兵の依頼は単価が高い上、二つ名がつけられる程度には働いているから、お金はある。


それでも最高級のマンションに住みたいという欲求は無いから、そこそこの広さがあって、とにかく最上階の部屋を選んだ。

最上階であれば仕事での出入りが空から出来る。 急ぎの用があれば窓から飛び降りられるし、屋上に着陸してすぐに家に帰れる。これがとても便利で快適。


映画のヒーローみたいでかっこいいだろ?


そんなこんなで今日も朝の空中散歩の時間だ。今日は晴天でとても気分が良い。


俺は空が大好きだ。自由を感じれていい。理由はそれだけかと聞かれると、よく分からない。言葉に出来るのはそれくらいでほかの感情は言葉にしにくい。本当にただ好きという感じだ。まあなんだ、男のさが的な感じだろう。


午前中はバーに来る客が少ないから、暇な時は大抵空にいる。午後からはバーにいることが多い。依頼人が居れば、マスターが指示をしてくれる。ここ最近、週三回は依頼が入る。その日の夜に済んでしまうことも、長引くことも、様々ある。


昨日はアルバーさんの依頼を終わらせたから、今日はまだ暇だ。昼を食べたらバーに行って、依頼が無ければマスターの手伝いでもしようかな。




「マスター?今日は入ってる?」

「……」

彼は無言で首を横に振る。別に拗ねているとか、喉の調子が悪いとかでもない。彼は限りなく無口なのだ。今まで彼がしゃべっているのを見たことないし、名前も知らない。だから俺の中では"マスター"が名前。


「なんか手伝うことあります?」

「……」

「了解でーす」

もうマスターとも長い付き合いになるから、自分でも不思議だが彼の言わんとしていることは大体わかる。


俺は指示通り製氷された氷をカットしていく。この氷を削る音や、どんどん透明に近づき、美しくなっていく氷を眺めているとどこか癒される。


「よし。終わった。そろそろお客が来てもいい時間なんだけどな」

「ごめんくださ~い。今営業中?」

「いらっしゃいませ。やってますよ」

見知らぬ女性が店に入って来た。綺麗な白色の鳥の羽根でできたスカーフを巻いている。格好を見る限り傭兵かと思われる。カーキ色のトレンチコートを身に纏い、腰に二丁ハンドガンを携えている。


俺と変わらないほど背が高く、175cmはありそうだ。首元までの短い髪は、薄っすらとベージュの色味が入った銀髪ぎんぱつをしている。容姿も端麗と言うにふさわしい、美しい姿をしている。


「やあ、少年。私は今人探しをしていてね。

月燕と呼ばれてる人物を探しているんだ。知ってる?」

彼女は女性にしては少し低い、落ち着きのある声で話す。

「知ってるも何も、たぶんそれ俺です」

「うぇ?!そうなの?君が空を駆け敵をなぎ倒す傭兵なの?へぇ~、若いとは聞いてたけど、ここまでとは。君、何歳?」

「多分十六」

「多分?おぉ奇遇だね。私も二十歳」 


この人も何か事情があって年齢がはっきりしないのかな。

「お客さん、お名前は?」

「そうだそうだ、自己紹介がまだだったね。私はユキナ。少し離れた所で傭兵をやってる」

ユキナと名乗る彼女は大人びた笑顔を見せた。

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