第2話 難しい話

~とあるバーの中~


ここは都市郊外のバー。といっても只のバーじゃない。俺たち傭兵の拠点となる場所。多くの依頼がここで取り行われている。


「どうも、お疲れさまです。依頼、済ませましたよ」

依頼主の男性の隣に座りながら言う。彼の名はアルバー。

俺の恩人でお得意さんで、家族みたいな存在。


彼は俺が行き場に困っていた時、俺に力をくれた。そう、このスーツは彼がくれたのだ。年は三十あたりで、俺にとっては年の離れた兄か、親のような感覚だ。 


今日もいつも通り綺麗に伸びたタキシードを身に纏い、酒をたしなんでいる。

彼はそのスレンダーな体を少しだけこっちに傾け、低く優しい色気のある声で答える。 


「そっちこそお疲れ様。今回もありがとうな。今回のは目標ターゲットも多かったし、少し難しい仕事になるかと思って報酬を多めにしといたんだけど、杞憂きゆうだったね。見た感じ余裕そうだ」

「最近調子が良くて。楽しかったですよ」

「ははっ、いいね。楽しいのは何よりだ」

アルバーさんは優しい笑顔を見せながら笑う。


「ところで、今日も話が有ってね」

「新しい依頼ですか?なんでも受け付けますよ」 

「あぁ、今日のは依頼じゃないんだ」

「お、なんだろ」

「早速だがヒルン、お前は“ラドリオ”という企業を知っているか?」

「えぇ、確か人工臓器?とかを作ってる会社でしたよね」


「その通りだ。そこが数年前からとあるプロジェクトを始めたんだ。それをリンク計画プロジェクトと言ってね。これは……」


彼はその計画について色々と説明してくれた。

彼の話をまとめるとこうだ。


①才能のある人を改造してさらに強くしてみた。 

②全国民には脳内にチップが入っている。計画の参加者のチップを改造して、特別な方法で他人と繋げられるように。

繋ぐと互いに能力アップ!これを“リンク”って呼ぶ。

③リンクすると、脳機能が実際二人分。そのほか色々。流石大企業!もう何でもあり。


みたいな感じ?


「そこで提案が有るんだ。ヒルン、お前もこの計画に参加してみないか?」


「え?…ちょっと急すぎませんか。いつもならその企業を壊せだとかだから考えてなかったです…」


「これは提案だから、絶対じゃない。お前が自由に選んでいいんだ」


彼は俺の実力を評価してくれているんだろう。「更なる力」ね。悪い話じゃないんだと思う。でも、気分が乗らない。俺は今の俺で満足しているし、改造だの何だのでサイボーグみたいなものになるのは嫌だ。なんか痛そうだし。


そして“他人との契約”も俺には合わなそうだ。人と関わるのは好きだけど、基本的に俺は受身でいるせいで、自ら関係の輪を広げる事はあまりしない。

ここには知り合いがたくさんいるが、みんな俺に興味を持って話しかけてくれた人達だ。だから相棒あいぼう?みたいなのを探し求めるのは俺に合わない気がする。


「うーん、ごめんなさい。俺にはあまり合わなそうなので今回はいいです」

「まあ、そうだよねぇ」

「なんすか、俺がること分かってたんじゃないですか」

「まあね。ずっと君の面倒見てきたし。ダメ元で聞いてみただけだよ。呼び止めて悪かったな。 まあ何か有ったら頼むよ」 

「はい。お疲れ様で〜す」

今日は外食にしよう。




――――――――


「だってよ。やっぱりヒルンはこういうのに参加するような性格じゃないんだよ」

「そうか。残念だ。また他のやつでも誘っといてくれ」

「はいはい」





「はあ、なんでそんなに人材が欲しいんだろうな……」

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