[死生朱雀]:1
「眩奈さんからのお墨付き〜♪」
血走は上機嫌で、[調査隊]が持ってきたマイクを握った。
「というわけで皆さん![死生朱雀]を潰すために出来たこの連合軍!団長がいない今、県内最強の罪狩りである深紅亡眩奈さんから使命を受けて、私が総指揮官を務めることになりました!」
[赤連]の部屋に、血走の大声が響く。マイクが声を届ける先、連合軍の耳にはエコーが聞こえていた。
「先程、私の部下が[白虎十字軍]に撃たれました。彼らが持っているのは銀弾、杭と、その他銀製の武器の数々です。それを人間より優れた身体能力を持つ刃血鬼が手にすれば、分かりますね?」
返事は聞こえない。彼女の耳につけられた通信機は、何も声を拾っていない。
「弱者が強者に対抗する手段を強者が奪ってしまえば、いよいよ弱者は逆転の術がなくなる。バランスの上に成り立つ世界で、それを崩す訳にはいかない。[調査隊]により、[爆賛會]には多くのコネクションがあることも分かりました。他の罪競い、とりわけ[四柱]や[鳴亡兵団]に、武器を渡すことは許されない!!」
系糸しかいない部屋で、ひたすらに想いを叫ぶ。共同作戦を成功させるために。
「私達に牙を向ける人間は、まだ幼い子供です。中学生、高校生を唆して危険にさらすようなクズは、絶対に生かしてはいけない。これだけは絶対です、[白虎十字軍]の統率者は、確実に殺さなければならない!それをよく覚えておいてください」
声のトーンを一度下げ、最後に血走は宣言した。
「ではこれより、共同作戦:[死生朱雀]を開始します!」
血走の通信機が、歓声を受け取った。血走はマイクを切って手を下ろし、窓を蹴破る。
「え?ちょ、何してるんですか?」
「[調査隊]にマイクを返すんだよ。えーと、このくらいの角度かな」
輪の加速方向は手の平の向きで決定される。関節が動く範囲には限界があるため、上に飛ばすためには腕を動かさなければいけないのだ。
「えいっ!」
投球しているとしか思えないフォームでマイクを輪に通し、血走は振り返った。
「やることは終わった。行くよ、赤亡くん。作戦はもう決まってるんだ、迷う暇はないよ」
少し困惑しながら、
「僕も[白虎十字軍]…いや、[死生朱雀]に借りがあります。あの2発の銀弾の痛みは必ず、返してやらないと…!」
「ははっ、頼もしいね。その復讐心がアレに対しても薄れないことを祈るよ」
「アレ…?」
意味深な単語を放ち、血走は窓を抜けて輪をくぐった。
―――
「
各
大通り。使える範囲は決して多くないが、可能な限り対策はして出向くために、血走はある陣形を提案していた。
「やぁ、交河さん」
「あ、血走殿。こんばんは」
血走は先程まで指示を出していた、スーツ姿の礼儀正しそうな男性に話しかける。
「あー、紹介するよ。この人は
「赤亡系糸です」
「あぁ、君があの新入りですか」
「はい。精一杯——」
「要りませんよ。新入りだからって気張らないでください。背後には私達がいます」
交河は赤亡に近寄り、肩をポンと叩いて
「心做殿を、取り戻しましょう」
と囁き、去っていった。
(…か、かっこよ!)
所謂大人の姿を垣間見た赤亡だった。
「…で、目を輝かせてる所悪いんだけど」
血走は指を差した。
「あれは
その後も、血走の紹介は続いた。
N区、最大の大通り。周囲に高層ビルが立ち並ぶこの地が、決戦の場所に選ばれた。
〈殺した[死生朱雀]のメンバーは、即座に相手方向に投げ返してください。刃術による爆発の恐れがある〉
小声で、マイクに耳打ちし、全員に知らせる。
〈…準備は整いました。中央最前列の
[死生朱雀]が接近するにつれ、連合軍の緊張が高まっていく。
「…突撃ー!!」
先に声を上げたのは、[死生朱雀]だった。
「総員、防衛に努めろ!!」
続いて、護山が叫ぶ。同時に沸血して刃術を発動させ、バリアを生成した。
〈震奮、相手の中心部に血刃を投げ込んで。無理そうなら一度引っ込んで、なるべく多く〉
「…仰せのままにってな」
連合軍が続々と沸血を発動する中、中央の前衛に位置する震奮が、血刃数本を投擲した。
「特殊刃技:
[死生朱雀]前衛で発動した震奮の刃術は、銀の剣を持って立ち向かっていた少年達を転倒させた。
(どうする…?今なら全然攻め込めるけど、そうすると物量で勝る[死生朱雀]に囲まれてジ・エンド。個々の戦力なら多分こっちに分があるけど、当たったら絶望の銀弾とか、剣の側面でもこっちを焦がせる銀の剣とかを持ってる)
中央部隊の後衛にいる血走は、戦局を見ながら思考していた。
(こっちの総数180人に対して、相手は300人。相手側死者0で、こっちは5人。で、その内訳が——)
高所からの狙撃音。
(なるほどね。機動部隊が潰しに行った後衛のスナイパーよりも、こっちを潰したほうがよさそうだ)
血走は輪を出現させ、血刃を射出した。
「これで、もういっちょ!」
飛ばした血刃を空中で輪に変化させ、もう一発射出。
二度の加速を経た血刃は、弾丸のように、ビルの上に陣取っていたスナイパーに鋭く突き刺さった。
―――
「刃血鬼ィィ!!」
「…捕縛血糸」
銀の剣を持って向かって来る少年の動きを封じ、引き寄せて金的蹴り。
「ゔっ…」
「没収。
「あいよぉ!」
系糸は、収川と呼んだ男性に向かって銀の剣を投げつけた。
「
飛来してきた銀の剣に向かって、収川は自分の血刃をぶつけた。
「多分50本は奪えます。そのままお願いできますか?」
「任しときな!」
収川が勢いよく了承し、双方が親指を立てた。
(系糸さんの見立てでは300人くらい…銀なんて一瞬で刃こぼれしそうだけど、刃血鬼相手なら当てるだけでも大ダメージだから問題はなさそう)
1人、また1人と捕まえていく系糸。
(…今のところは人間ばかりだ。[爆賛會]のメンバーがまだ出てきてないんだよね…)
系糸たち右翼側は現在、順調に本陣へと侵攻していた。
〈――隊!機動部隊の活躍により、[死生朱雀]狙撃部隊が甚大な被害!〉
「…ってことは…!」
系糸は拳を握りしめる。
「ああ。近接部隊だけなら相手にはほぼ勝ち目がねえ。俺等の勝ちが濃厚だ…!」
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