「祈るしかない、彼らの勝利を」

「主催者が遅れないでよ」

 ポニーテールの女性、橙亡速華スーファが言う。

「悪かった。だがさっきも言った通り、やむを得ない事情があったのだ」

「許してやれ。俺等が遅刻したときに、一度でも彼が怒ったことがあるか?」

 擁護するのは糸目の男性、欺偽迷眼めいがん

「関係ない。遅刻は遅刻だ」

「チッ…無能はテメェだろうがよ」

 先ほど心做に対して話題を逸らすなと述べた天竹あまたけ二葵にき、無能呼ばわりされた谷崎たにざき嵐舞らんぶも続く。

「私が貴様を無能と言った理由は、今から話すこの議題にある」

 心做はそう言って、卓を叩いた。

「何故、この地域に四柱がいる…?茜亡円火は谷崎、貴様の管轄にいたはずだろうが…!」

「いっ…」

 気迫に仰け反る谷崎。

「この会議の出席人数が5人なのは、有力者が少ないからだ。他の5区はもはや罪狩りが罪狩りとして働いていない」

 S県R市には全部で10の区が存在している。国内最強クラスの心做を擁するN区を中心として、それぞれの区の最強戦力が現在集まっていた。

「貴様は総戦力が貧弱なこの地域に奴が来るまで、何一つも対策しなかっただろう!?」

「うるせェな!じゃあテメェが倒しゃいいだろうが!その強さは何のためにあるんだよ?」

「知っていれば未然に防げた!失われた命はもう戻らない…それに今は私の強さの話ではない。貴様の職務怠慢の話をしているんだ。成務票ではなく共同作戦オペラレコムナで受ければ済む話だろう?貴様一人では勝てなくとも、複数人で挑めば確実に殺せたはず!」

「挑むには、俺達は弱すぎるんだよ…テメェが思ってるより奴は——災禍の炎ディザスターフレイムは強い」

 肩を落とす谷崎。

「…会議は終了だ。一刻も早く奴らを——」

「待て」

 迷眼が、心做を引き止めた。

「どうした?」

「[調査隊]から連絡が入った。連続爆殺事件の犯人、もといその組織が判明した」

「そうか…だが今そんなことは—」

「関係ある。先程連中は[白虎十字軍]と手を組み、N区に侵攻を始めたそうだ」

「…何だと?」

 心做の顔が曇る。

「もう一つ。お前は急ぐべきだが、そうも行かない事情が発生した」

 迷眼はしかめっ面で、顔を押さえる。

「鬼神府全体が、巨大な樹で覆われている。そして、鬼神府内では刃術を発動できない」

 迷眼は、ゆっくりと言い放った。

「すこぶる頑丈だそうだ。恐らくは[四柱]最強の、草木を操る者の仕業と思われる」

 全員の顔に緊張が走り、冷や汗が流れた。

「事件の原因である[爆賛會ばくさんかい]、刃血鬼狩りの盟団[白虎十字軍]、そしてチートの集まり[四柱]に、俺等は関与することができない。[赤連]や、他の区の盟団の人員だけで倒すしかなくなった」

「面倒なことになってしまった」

「ねえ嘘でしょ?」

「クソッ…こんなことになるなら…」

 一人ひとりが思い思いに、言葉を口走る。

「幸いにも指示は出せる。祈るしかない、彼らの勝利を」

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