五亡家

「五亡家?なんで知ってんだ?」

 目を見開いて食いつく紅亡。

「一人目の工鳴七が言ってたんだ。五亡家の者、赤亡家の者がどうたらって」

「…これについてはお前のほうが詳しいだろう。話してくれ」

 心做は立ち上がり、扉の方に向かって歩き出した。

「あ?どこ行くんだよ」

「先程から血走が戻ってこない。探しに行く」

 しばらく防衛を頼むと言い残し、心做は去っていった。

「はぁ〜あ、あいつ俺を何でも屋か何かだと思ってんだろ…」

 まあいいや、と、紅亡は系糸に向き直り、話し始めた。


亡色なきしき家。昔、五亡家はそう呼ばれていた。言っちまえば名門、最強の罪狩り集団だったんだよ」

 関係はあっても、全くと言っていいほど聞き覚えのない単語。系糸は、真剣な顔つきで聞き始めた。

「で、ある時身内争いが始まった。発端は亡色零意れいいなる人物が、その代の当主を骨も残らないほど切り刻んで殺害し、後継者の座を奪い取ったこと。しかも奇襲や小細工とか、卑怯な手は一切使わない、純粋な決闘でな」

「その実力があるなら――」

「話は最後まで聞け。そいつは野心の塊だったんだが、根は武人だ。だが、後継者は器で決まる。力があるだけじゃどうにもならなかった」

 力量ではなく度量。争うだけならまだしも、殺害までに至るような、自身の力を制御できない者に後を託すわけにはいかなかったのだ。

「で、当然反発を買った。死んだ当主は歴代でも稀に見る善人だ、慕われてたんだよ」

 紅亡の話は続く。

「零意の手段とは相異なり、反発勢力は徒党を組み、奇襲を仕掛けた。それに零意が激怒して、関係者を皆殺しにした」

「武人…ね」

「そうだ。自分も真っ当に勝負を挑んだのだから、集団でも正々堂々やれという話だな。鬼神府のルール上、正式な決闘での死者は罪には問われない。つまり誰も咎めることが出来なかったわけだな」

「…じゃあ、零意は」

「その通りだ。何の弊害もなく当主の座を継ぎ、そして当主の権限で独自にルールを決めたんだ」

「ルール?」

 脈絡なく出てきたルールという単語に、系糸は首をかしげる。

「当時亡色家の一部の連中が賄賂を受け取り、ロクに罪狩りをしなかった。相手もずる賢く、刃血鬼界での治安が維持しづらくなっていた時だったんだよ。ちゃんと動いてる罪競い達が割りを食うのを防ぐために、功績順と強さの順でランク付けしたんだ」

「…まさか、五亡家って」

「一族内の階級…要は色の濃さだな。深紅亡ふかこなき茜亡あかねなき紅亡べになき赤亡あかなき、んで橙亡とうなき。賄賂もらってた連中は漏れなく追放、亡色家は事実上、零意の子孫だけとなったわけだ」

「ちょっと待って」

 系糸は疑問を口にする。

「じゃ、なんで僕は今まで刃血鬼じゃ無かったの?紅亡さんは?」

「俺は元々だが、刃血鬼は日光にある程度耐性があるんだ。ほら、思い返してみろ。外で遊ぶときは大概、長袖だっただろ?」

「…確かに」

「あと、赤亡家と橙亡家は最近、亡色の血が薄くなってるんだ。人間と結婚したりしてな」

「へー」

 系糸のそっけない返事をもって、五亡家の話は終了した。

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