ショーダウン

「近づいてんじゃあねェ!」

 紅亡は飛びかかった工鳴七の血刃を弾き飛ばし、腹部に蹴りを入れた。更に、紅亡が工鳴七の顔面に斬撃を浴びせたことを皮切りに、紅亡の猛攻が開始したのだ。

「ふむ…私の影武者を倒せる時点で、これは相当…」

「ごちゃごちゃ吐かすな!」

 顔面への攻撃の後。二発目をすんでのところて回避した工鳴七は、未だに紅亡の刃を躱し続けている。

(これほどまでに攻撃を繰り返してなお、筋がぶれていない。中々の強さだ…さしずめ、私の勝率は95%程度か)

 防戦一方ではあるが、冷静に分析をする工鳴七。そしてその傍ら、己にできることを模索する系糸がいた。

(さっきは下がってろなんて言われたけど…)

 戦闘に参戦しようにも、そのままではただ足を引っ張るだけ。

(というか、紅亡さんは僕を助けに来たんだろ?僕が手伝えるわけないし、むしろここは邪魔にならないよう逃げるべきか?)

 罪悪感が無いと言えばそれは全くもって嘘。良き兄貴分を、自分の為に戦ってくれているその人を尻目に逃走するなど、一般の感性からしても褒められるものではない。

(…いや、僕は漫画のヒーローじゃない。勇敢じゃない。今すぐに…!)

「沸血!」

 やはり彼の選択肢は逃走だった。しかしただの逃走ではない。

「あいつ…!?」

「フフッ、やはり素質はあったようだな。逃げられても困る、私は彼が欲しい…!」

 ターゲットを系糸に移し、工鳴七は走り出した。そして、それをまた追うように紅亡も動き出す。

(かかった…!)

 系糸は血刃を8本ほど引き抜き、左右の壁に投げて突き刺す。

「…刃術か?原石とはいえまだ輝いてはいない。強引に突破させてもらうぞ」

 工鳴七はどんどん距離を詰めていく。

「よせ、とっとと逃げろ!」

「ああ、体はさっさと逃げたいんだけどさ。生憎この脳がね…」

 系糸は仕掛け位置から数m離れて、立ち止まった。

「逃げることを許してくれないんだよ…!」

 今、まさに工鳴七が通過しようとしたその時だった。

「切り刻んでやる…極細切糸ごくさいせっし!」

「なッ!?」

 血刃同士が糸で繋がる。

「過剰防衛なんて無い。ずっと命を賭けてるのが刃血鬼なんだろ?僕があんたを殺しても、咎められることは無いんだ…!」

 一本の血刃から複数の糸を出し、乱雑な網目を作る。刃血鬼一人縛り上げられる程強靭な糸は、通過しようとしたものを綺麗に微塵切りにするのだ。

「フッ、私の負けだな」

 一気に切断される頭蓋と四肢。皮膚と骨が引っ付いたグロテスクな断面と、辺り一面をびしょ濡れにしながら撒き散らされる大量の血液。

「うっ…進んで見たい光景じゃないのは相変わらずだな」

 上半身が細切れになったところで刃術を解除。

「あぁ畜生、良いところだったのに掻っ攫われちまった」

 紅亡が微笑みながらこぼす。

「別にいいでしょ、僕が倒したって」

「俺の面子がねえんだよ。問題もねえけどな」

 紅亡は拳を突き出す。

「強かったぜ、系糸」

「…紅亡さんに認められるなら、案外悪くなかったりするのかな」

 二人は拳を突き合わせ、消失してゆく工鳴七の残骸を見ていた。

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