四章 鳴亡兵団

脱走:1

「なんでここに!?ってか――」

「面倒くせぇから後にしやがれ。とっとと逃げろ、死ぬぞ?」

「何言って――」

「俺は救出に来たんだよ!さっさと逃げやがれ!」

「…わ、分かった」

 系糸は、紅亡がこじ開けた壁から逃げ出した。

「…さて、と」

「立派な精神だな、自己犠牲など」

「間違っちゃねえけどよ…」

 頭を掻きながら、紅亡は対峙する。

「俺はテメエら格上に泡を吹かせてやりたいだけなんだ。ワンペアだろうと、ましてハイカードだろうと、立ち回り次第じゃ潰せるんだよ!」

「自分の手札は分かっているんだ。ロイヤルストレートフラッシュで、なぜ降りる必要があるんだい?」

 睨み合う二人。その気迫は、半人前ですら感じ取れるほどに。

「そいつは自画自賛が過ぎるだろ?格上なんて言ったが、精々スリーカード程度のモンだ」

「君から宣言したんだ。そうだとしても、結局私が勝つのは変わらない」

 一呼吸を置き、紅亡が口を開いた。

「フロップだ」

 ―――

 狭い廊下を疾走する系糸は、五亡家という単語が頭から離れなかった。

(多分3つ目は紅亡だ。ただ…)

 総称があること。そして、工鳴七による「五亡家最強の男」という発言から、恐らく刃血鬼の血統が関連するであろうと系糸は踏んだ。

(仮に五亡家が刃血鬼の一族みたいなものだとして、だ。僕は刃血鬼じゃなかったし、紅亡さんも遊んでたのは真っ昼間だった。それに、纏められてる割には、他の五亡家の事を僕は知らない)

 括られているということは、多少なりとも関わりがあって良いはずなのだが、今に至るまで名字に「亡」が付いた者が来訪したためしがない。

(ま、赤亡が五亡家じゃなかったら水泡に帰すんだけど…言われちゃってるからね)

 彼を拉致した者は五亡家と。そして工鳴七は彼のことを赤亡家の者と称した。部下と思われるため、関連性はあるだろう。

「いや、いいか。団長なら知ってんでしょ」

 いくら考えても仕方ないと割り切った、その時だった。

「いたぞ!逃がすな!」

「…鬱陶しいな…!!」

 足止めの兵三人が、立ち塞がってきたのだ。

「今ほど自分の名字を恨んだことはないよ…何も知らないのに拉致されるなんてさ…!」

 体温が上がる系糸。

「沸血!!!」

 激しい熱気を放ち、系糸はそのうちの一人に突撃した。

「殺しはしないけど。邪魔なんだよ、君たちは…!」

 一人を捕縛し、残りを巻き込んで壁にぶつけた。

 文句なしのK.O勝ち。

「…じゃ、先を急ぐから」

「待て」

 巻き込まれた内の一人、謎の老翁が立ち上がった。

「鬼ごっこで待てなんて言われて待つわけ無いだろ?さっさと逃げたいんだ」

「この儂、深紅亡ふかこなき斬断きりたを、まるで雑魚のように扱いおって…」

「あー、また面倒くさいことになった…最悪だ」

 このあと何が起きるかを察した系糸は、ますます己の不幸を嘆く。

「沸血じゃ…!貴様の首と胴が別れねば、腹の煮えが収まることはありはせん!」

(はぁ。とっとと逃げるが吉、付き合うだけ無駄だよ)

「刮目せよ…特殊刃技とくしゅじんぎ:昏裂斬こんれつざん

(なんか技名言ってないか?)

 系糸は振り向き、老翁を確認する。

(血刃はなんか赤く光ってるし、なんか伸びてるし、そもそもそこからじゃ僕には当たらない。で、構えからして居合ではない…むしろバット構える時のそれだ)

 左打者のスタイルで、刀身の伸びた血刃を構える老翁。

(動く気配が見えないってことは、まだ刀身が伸びる可能性がある。構えは横の大振りだから――)

 彼が取った選択肢は、スライディング。

(当たりを引かないと…死ぬ!)

 老翁は、血の剣を振った。

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