拉致

 時刻は深夜、と言うには少し遅い午前4時。1時間もすれば焼け死ぬだろう。

「クソッ…無闇に動くとまた抉れる。敵に見つかろうものなら死は免れねえし、仲間は全員心做の餌食だ…」

 男は歯ぎしりをする。

墨一すみかずの兄ィは数日前から消えちまったし…牙抜家の恥だ、クソッタレ!」

 情けない姿を晒しながら、男は叫び続けていた…。

 

 一方で、赤亡。

「血走さーん!いますかー?」

 可能な限り大きめの声量で呼ぶ。

「…生きてるといいん――」

 何かが、体から離れた。

「…は?」

 右手、続いて右足。

「――ッはぁ…ぐぁ!?」

 遅れてやってきた痛みで動けなくなったところで、飛んできた血刃が頭に突き刺さる。

「何…が」

「おい、五亡家の人間だ!」

「序列は知らんが、とりあえず下っ端にでもしてやろうぜ!」

「殺すなよ、貴重な資源だ」

「おら、ちっとばかし眠ってもらうぜ」

 直後、赤亡は意識を失い、何処かへと連れて行かれた。

 ―――

「…ん…?」

 見覚えのない光景が、赤亡の目に飛び込んできた。

 殺風景な真っ白い部屋、正面に見える鉄格子。拘束されていた訳では無いが、足元には鎖。完全に囚人のそれだ。

「僕…血走さんを探して……あれ、治ってる?」

 吹き飛ばされたはずの手足が、元通りになっていた。

「つまり…また誘拐?」

「その通りだ、赤亡家の者よ」

「え?うわっ!?」

 天井に空いた通気口のような場所から、逆さまの状態で体を出した、細身の男性。

「だ…誰です?」

「ほう、初対面で敬語か。君とはまともな対話が出来そうだよ」

(対話?誘拐しておいて?)

 赤亡の記憶は、突如襲ってきた者達が資源だの言っていたところまで。

「何を話すんです?素性がわからければこちらも話しようがありません」

「それもそうだな…では、名乗るとしよう。深紅亡ふかこなき工鳴七くめな。我ら[鳴亡兵団]を統率する、五亡家最強の男さ!」

 五亡家。誘拐前に話していた者達も言っていた。

(五亡家…?多分深紅亡と赤亡と、あと3つ、赤に関連する家系があるんだろうけど…聞いたこと無い。いや、そこじゃなくて)

「ここは――」

「今ので気が付かなかったか?ここは盟団[鳴亡兵団]の本拠地。君を勧誘しに来たんだよ、私は」

「勧誘…?いや、僕は――」

「分かってるさ。君は既に盟団に加入している。そしてそれが、我らに敵対する罪狩りの盟団であることも」

 看破されていると分かり、更に警戒を強める赤亡。

「あーそう怖い顔しなくたって――」

「系糸ィ!」

 ドゴン、と響き渡る音とともに、亀裂が入る壁。

「何?」

「…待って、なにこれ?」

 ラッパーのような服装の男が壁を蹴破り、牢の中へと侵入してきたのだ。

「…邪魔が入ったかな?」

「邪魔しに来たんだよ!!」

「…待てよ?」

 赤亡は、見覚えがあった。

 風貌、声、口調。

「…紅亡さん!?」

「久しぶりだなァ…系糸!」

 

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