圧倒

 恐怖。「分からない」「かもしれない」から生まれるその感情を増幅させ、意のままに操れる刃術、赤い恐怖―レッドテラー―

「[赤連]が少数精鋭である所以…それは」

 ツカツカと歩み寄り、リーダーと思しき男に言う。

「貴様らのような、哀れにも飛び込んでしまった連中を、傀儡にしているからだ」

 リーダーと思しき男の首を掴み、命令する。

「丁度いい頃合いだ。あの爆発音を調査してこい」

「…は…はい、分かりました」

 歯ぎしりをしながら、リーダーと思しき男は、一目散に駆けていった。

 ―――

「せめて、感傷に浸る時間が欲しかったな…」

 爆発音が血走のものであると考えた赤亡は、数十km離れたビル街へと向かっていた。

「血走さん…じゃないよね?刃術でダメージ入るのか分からないけど」

  ここで、刃血鬼の隠密機能ステルスについて。

 隠密機能はモードがあり、それぞれを切り替えることで刃血鬼は活動している。

 まずは普段遣いとなる完全隠遁状態フルステルス。刃血鬼、人間、双方からの干渉を完全に遮断する物。触れることはおろか見ることすらできない。

 次に、吸血隠遁状態サッキングステルス。刃血鬼からは人間が見える。吸血のみ可能になり、攻撃は不可能。攻撃するには、相互干渉可能状態オフステルス、つまり人間と同じ様に紛れている状態でなければならない。

 彼は血走からこれらについて聞いており、現在は完全隠遁状態である。

「人間側で起きた爆発はこっちから見えない。多分刃術だろうけど…」

 赤亡には懸念があった。

「万が一、血走さんだったとして…いや、やめておこう。これを疑えば、いよいよ僕は何も信じられなくなる」

 厭々成ってしまった刃血鬼。拉致されたとはいえ、以前の3ヶ月、教えてくれたのは彼女だ。あのまま逃げ出していれば、赤亡は間違いなく死んでいただろう。

「あの人は…爆発程度で死ぬようなものじゃない」

 実力の片鱗は見ており、赤亡の中ではそこそこの信頼があった。

 怨野に裏切られ、地獄を見た後。酔闇に痛めつけられ、更に恩人まで失っては――。

「…ッ!」

 突如、頭に何かが突き刺さる。

「誰だよこんなときに…」

「失せろッ!俺は今機嫌が悪いんだ!」

 ひどくやつれた顔の男が怒鳴る。

「そっちの事情は知りませんけど…ま、分かりました。僕も急ぎの用があるので、大人しく逃げますね」

「逃げてんじゃねェッ!」

 追撃。今度は背中に。

「ぐっ…な、何なんです?」

「[赤連]とかいう極悪非道な組織に捕まって命令されてんだ、憂さ晴らしさせろや!」

「…捕縛血糸ほばくけっし

 血刃の重さを利用して糸を巻き付かせ、動きを封じる。

「なったばかりだからよく分からないけど…生憎僕も[赤連]なんだ。憂さは晴れないよ」

「チッ…相手が悪いな。弱体化の封印ウイークシール!」

 突如糸が解け、男は赤亡に走り出した。

「えっ…?」

 男に向かって血刃を投擲するが、傷口から糸は伸びない。

(…刃術が、使えない!?)

 混乱の最中、隙を突いた男から顔に斬撃を食らう。

(痛い…けど、戦闘じゃよくあることだろ!目に当たらなかっただけマシだ!)

 腕を掴み、血刃を持っていた右腕の骨を折る。怯んだ隙にローキックで更に足を折り、腹部に血刃を思い切り刺した。

(刃術の使用には血液を要する。能力を縛るのは継続か、それとも発動時に一気に消費するのか。後者ならどうしようもないけど、前者ならなんとか…!)

 赤亡が血刃を思い切り引き抜き、男は耐えきれずしゃがみ込む。

(んだよこれ…傷跡が抉れる…!)

 男は左手で腹部を押さえ、次の攻撃に備えた。

「隙ありッ!」

 男が次に食らうと予想していたのは顔だった。というのも、この位置関係上、全力で蹴り飛ばせば脳震盪が起こせるのだ。

 しかし赤亡の狙いは違う。

杭打糸刃くいうちしじん!」

 四本の血刃を素早く取りだし、そのうちの二本を落とす。小さく跳び、それらを空中で踏みつけて速度を増す。靴を貫通したタイミングで脳天にかかと落としを決め、怯んだ隙に血刃をもう一度しっかりと踏み、足と地面を固定。

「ついて来られたら困るし…このまま磔にする!」

 踏みつけの勢いでもう一度跳び上がり、超至近距離でのドロップキック。直後、男の右手に血刃を刺し、それごと地面に打ち付けた。もはや抵抗の手段もない男の左手にも同じ様に攻撃を加え、終了。

「ふーっ…そのうち誰か来てくれるだろうし。夜が明けるまでには戻れるといいけど」

 膝を立てた状態で、Tの字に磔となった男を尻目に。赤亡は夜の闇へと消えて行った。

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