現れた追手




 跳ね飛ばされて地面に転がった首を見て、私は息が詰まった。

 けど、それは人の死体を見たからという訳じゃない。これより残酷な死に方をした死体を私は何度も見てきた。今更、生首で悲鳴を上げるほど純粋じゃない。

 

 ——それでも。


「全身黒い装束——か。多分、神魔教団という組織の人間だろう。噂に聞いた程度だけど、魔物を崇拝するそんな組織があるらしい」

「そんなことはどうでもいいんだよ。お前らのせいで二人逃がしたことを忘れるな」

 

 ——違う。教団なんかじゃない。


 私も、教団の噂については知ってる。全身が隠れるほどの黒いローブを身にまとった組織。なんでも「神」と呼ばれる魔物を崇拝しているのだとか。今回、ユーリス君に殺されたこの人間もその特徴と一致してる。


 ——だけど、教団の人間じゃない。この人は教会の人間だ。


 私がまだ教会にいた時にこの人と会った事があるのを覚えてる。もしかしたら、教会を辞めて教団に入った——ことはあるかもしれないけど、だとしたら辻褄が合わない。


 今まで噂話程度の存在でしかなかった教団が、こんな白昼堂々と姿を現すのは考えにくい。それに、教団と私たちは無関係なんだから。

 だからさっきの襲撃達は教会の人間で間違いないと思う。それに、去り際に言っていた「取り戻す」の一言。きっとあれは——、


「——私を……連れ戻しに来た」 


 多分そう——いや、間違いない。教会から逃げた私を連れ戻しに来たんだ。

 その可能性に行き着き、冷や汗が止まらなくなる。


 ——呼吸が浅くなって、視界が霞む。


 もう二度と教会には戻りたくない——。そんな感情が頭の中を埋め尽くして「なんで居場所がバレたのか」という疑問すら出てこない。


 ——嫌だ、逃げたい。今すぐどこかに隠れないと、また追手が来る——。


「——お姉ちゃん? 大丈夫? 顔色悪いよ?」


 今すぐここから離れたい——そう思ってる私に、ラビの心配そうな声は届かなくて。


「……ユーリス君。この間の話、今すぐ決めて」


 ——気付いたらそんなことを口走っていた。


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