御前選定戦
「……先に教室に戻っていたのか。——ならそうやって言え。突然立ち去るな」
食堂から戻って来るなり、先に教室へ戻っていたらしいプリックにそう言った。
「……ユーリス君。ごめん、ちょっと体調悪くてさ」
「貧弱だな。——まぁいい、それなら教師にはお前が早退することを伝えといてやるから寮に戻れ」
「ユーリス君————」
優しさから言ってやったつもりなのだが、何故かプリックは困惑した表情を見せた。
凄く何かを言いたそうな顔をしているが何も言わない。
「言いたいことがあるならはっきり言え。察しろとか言い出す奴は嫌いだ」
「——午後の授業は休みだ。君はそんなことも知らなかったのか? ユーリス」
口をまごつかせたままのプリックの正面に立っていた俺の背後から、嫌に耳障りな声が俺の耳に届いた。
「休み? ——なんだ、あのクズな見習い教師はクビにでもなったのか」
「違う、あの先生はクビになっていない。というか、クビになったんだとしたら他の先生が代わりに担当してくれる」
「じゃあなんで休みなんだよ。クビ以外に何か理由があるなら言ってみろ」
「——はぁ、御前選定戦だ」
御前選定戦——聞いたことがある。
たしか、騎士団の人間と学園の生徒混合でトーナメント式の模擬戦をするやつだったか。
「君は興味なさそうだとは思っていたけど……ここまで無関心だとは思わなかったよ。御前選定戦は騎士団長を除く現騎士団と学園生の混合で行われる一対一の試合さ。この試合の結果を国王様がご覧になられて、騎士団長候補が決められたりもする大事な試合なんだよ。その準備期間として一週間の間、午後の授業は休みになるんだ。——まぁ、君は興味なさそうだし参加しないんだろう? 生徒の参加は任意だから自由にしなよ」
——なるほど。つまり、御前選定戦とやらに参加すれば俺の実力を直接、国王に見せられるという訳か。
「参加しないなんて誰が言った。俺は出るぞ。御前選定戦」
「——は⁉」
「——え⁉」
プリックとクルトの二人が驚いているが、俺は元々参加するつもりだった。ただ、仮に優勝したとしても何もないことに不満があっただけだ。
だが、今は違う。騎士団長になるという目標が出来た今、これ以上ない絶好のチャンスじゃないか。
——それをみすみす見逃すほど俺はバカじゃない。
「その試合で優勝すれば騎士団長になれるんだろ? だったら出場するに決まっている」
「——いや違う! あくまで国王様が試合を見に来るだけだ! 優勝したからと言って騎士団長になれるわけじゃない! だいたい、君はこの前「騎士団長になんか興味はない」って言ってたじゃないか!」
「そうだよユーリス君! どうして急に騎士団長になろうとしてんの……?」
「黙れ、俺の事情だ。だいたいクルト、お前さっき自由にしろって言ってただろうが。——あぁ、俺が試合に出たらお前が優勝できなくなるな。それが怖いのか?」
「————なんだと⁉」
「まぁ、お前が弱いのが悪いんだ。俺は誰が何と言おうと優勝する。せいぜい俺を楽しませてくれよクルト。それとも決勝前でお前はリタイアか?」
俺がそう煽ると、クルトはこぶしを握り締めて顔を赤くさせていく。
今、コイツは相当悔しいに違いない——そう思うと、もっと言ってやりたくなった。
「この——ッ‼ 君ってやつは!」
「俺に好き勝手言われるのが悔しいか? ざまぁないな。お前「弱い人を守ることが騎士の役目だ」とか言ってた割に、自分のプライドすら守れてないじゃないか。自分の事すら満足に守れないお前が弱者を助ける? 俺を笑わせたいのか?」
「——分かった。君がそのつもりなら望むところだ! 一週間後、決勝戦で君を打ち負かして、僕が騎士団長になって見せる‼」
「——無駄だ。お前は俺に勝てない。たとえ聖剣を持ってようがお前は俺を超えられねぇよ」
まだ試合は一週間後だというのに、互いに勝利宣言をする。
そうして、ヒートアップする俺とクルトの間に挟まれてプリックが慌てふためく——そんな中。
「——あれ、ユーリス君? 今日から謹慎明け? よかったね~」
冗談女のお茶らけた喋り方が、一瞬で俺の熱を冷まさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます