帰り道
「質問を質問で返すのはよくないよ? ……まぁでも、どうしてもって言うなら。真面目な方とそうじゃない方、どっちがいい?」
「——よく分かった。お前がそのつもりなら死んでも言わない」
「ちょ、なんでよ⁉ 空気を和ませようとしただけじゃん!」
——和ませる必要なんかないだろうが。
「アンタの冗談は聞き飽きた。俺が復讐したい理由を聞くために真面目に話すか、冗談を繰り返して諦めるか。どっちか選べ」
「……わ、わかった。話す……ちゃんと話すから——っ。だから……きみも嘘つかないでよ?」
「俺がアンタに嘘をついたことは無いだろうが」
そう返したものの、何に怯えているのか——急に威勢のよさが無くなってオドオドするシラに俺は違和感を覚えた。
「その——実は、きみの独り言ほとんど聞いちゃって……。魔物に復讐するために最強になろうとしてるの知っちゃったんだけど……。「俺の復讐心はその程度だったのか……?」って言ってたのも聞こえて——」
「ほとんど知ってるようなものじゃねぇか」
隠れて聞いていたことを恨まれるとでも思っているのだろうか。だとしたら心外だ。
誰かに聞かれるような場所で言った俺が悪いのだから、それを聞かれたところで怒りはしない。というか、それだけ知っていれば十分だ。
それなのに理由を聞こうとする方が俺の癪に障る行為になっている。
「ちょっと、静かに聞いてて。——私としては、復讐なんてバカだと思うの。だって——復讐したって虚しいだけだし、誰の為にもならないから。だから、きみがもし誰かに復讐つもりなら止めてあげようと思ったんだけど……。きみの復讐相手って魔物じゃん……?」
静かに聞いてて——と言われたからには静かに聞くべきだ。
同意を求めてられたとしても黙っているのが礼儀だろう。
——そういう訳で、俺は腕を組んで黙ってシラの話を聞いていたのだが。
俺の方を向いたシラは、喋る前よりもさらに怯えて小さくなった。
「だ、だからね? 魔物に復讐するなんて聞いたことなかったから、まずは理由を聞いて、それから判断しよー……って思ってたんだけど……」
「——終わったか?」
俺のその言葉に、今まで涙目になりながら話し続けていたシラが首を縦に激しく振る。脅しているつもりは全く無かったが、脅していると受け取られたらしい。
——まぁ、気にする必要もないだろう。隙あらば冗談を言おうとするこの女にはいい教訓になったはずだ。
俺は冗談が嫌いだ——ということは、これ以上なく伝わったに違いない。
「言いたいことは山ほどあるが、とりあえずこれだけは言っておく。——俺の行動をアンタが勝手に決めるなよ。復讐するかしないかは俺が決めることだ」
もはや、俺が何を言っているのか聞こえていないのだろう——と思えるほどに、シラは首を縦に振る。さっきのがよほど効いたのだろう。俺を見ることすら怖いのか、顔を逸らしたままだ。
「それと——俺が魔物に復讐する理由は、住んでいた村を魔物に壊滅させられたからだ。それ以上でも以下でもない。俺個人が魔物に恨みを抱いているだけのことに、他人のアンタが首を突っ込むな」
遠回しに「アンタには関係ない」と言いつつ、再び王都へ向けて歩き出す。
「——なら、なおさら復讐なんてやめなよ。……人生台無しにしたいの? したいなら別に構わないけど」
前を向いている事と周囲の警戒をしながら歩いている事が重なってシラの表情は分からないが、声音からして自虐が含まれている気がした。
——過去に復讐したことでもあるのだろう。その経験から得た答えが人生を台無しにするということらしい。
傍から見て……この女の人生が台無しになっているようには見えないが、少なくとも言っている事には一理ある。
人生を復讐に費やすくらいなら、他のことをした方がいいというのはその通りだ。実際、どれほど強くなれば魔物に復讐出来るのか分からないのだから。
——だが、だからと言ってここまで来て諦めるのはあり得ない。
そもそも、復讐するために強くなろうとして、学園にわざわざ通っているのだ。
復讐を諦めるのであれば学園に通う理由もなくなるが……それは俺の為に募金をくずし、学園に送り出してくれた孤児院のシスターを裏切ることになる。
——それは避けたい。
「という訳で、さ……ちょっと提案があるんだけど。聞きたい?」
提案——という言葉を使っておきながら、やけに勿体ぶるシラの態度に、俺は首を傾げた。
「その——学園を辞めて私と一緒に、ヘルスエイドになる気はない……?」
「ヘルスエイド——? なんだよ、それは。聞いたことが無い」
俺がそう聞き返すと、シラはどこか後ろめたさを感じる態度で「ヘルスエイド」というものがどういうものなのかを説明しだした。
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