ヘルスエイド
——曰く、この世界には主要都市のほかにも村が存在していると。
しかし、その村のほとんどは物資難、食糧難に陥っていることが多く、生きていくことが非常に困難な状態にある。
そんな人達を助けるべく村から村へと移動していき、その先々で病人やら怪我人やらを癒しながら物資を提供していく存在のことを「ヘルスエイド」というらしい。
「——そんな存在は実在しないだろ。聞いたことが無い」
「それはそうだよ。だって私が作ったんだもん。ちなみに、名前は今考えたところ」
「ふざけるな。そんな目的が曖昧なものに付き合ってられるか」
「目的は曖昧じゃないでしょ? 色んな村に出向いて困ってる人を助ける医者なんだから」
シラはそれに「悪い話じゃないでしょ?」と付け加え、俺の反応を覗ってくる。
「俺はやらない。そもそも、お前の言ったそれは事態の解決になってるわけじゃない。仮に病気を治して物資を与えてやったとしても、それが絶たれる原因になった魔物をどうにかしない限りは同じことの繰り返しだ」
「で、でも……そのために魔物と戦えるきみを誘ってるわけだし——」
「——俺が出来るのはせいぜい、移動中の安全確保程度だ。魔物の襲撃を無くせる訳じゃない。それなら騎士団に任せるべきだ」
残念ながら、今の俺には今すぐ魔物をどうにかできるほどの実力はない。一匹殺せば事態が解決するのであれば俺で十分だが、魔物の数は星の数ほどいる。
そんな魔物に数の暴力でやられないようにするには騎士団が一番だ。
「それは——ダメだよ。騎士団なんて頼りにならないもん」
だが、シラは俺の騎士団に任せるべきというアドバイスを否定した。
騎士団なんて頼りにならないという言葉は、つい最近に寮のばーさんからも聞いた話だ。
だが、騎士団は一般人にとって最も頼りになる存在のはずだろう。
それが何故、あちこちで頼りにならないと言われているのか。
単純に、実力が低いというのであれば解決することは簡単なのだが——。
そこまで考えて、俺は閃いた。
騎士団なんて頼りにならない——のであれば、鍛え直せばいい。
「そうか——。そうすればいい……!」
俺が騎士団長になり、騎士団を一から鍛え直せば魔物の絶滅も一人でやるより遥かに現実的になる。それだけじゃなく、学園に通い続ける理由もできるだろう。
学園を卒業しない限り、騎士団長はおろか騎士団に入団することもできないのだから。
「——? いきなり嬉しそうな声を上げてどうしたの?」
「やるべきことが決まった。これで全て上手くいく」
間違いなく俺は天才だ。
一度で全ての問題に、同時に模範解答を叩き出したのだから。
「ひとまず、俺は騎士団長になるぞ」
「——へ? ちょ……どういうこと? 騎士になるつもりは無いって——」
例年、騎士団長は聖剣使いに拝命されるが、聖剣使いがクルト程度の実力なら何も問題は無い。所詮は雑魚、力で打ち負かせばいいだけの事。
聖剣使いより俺の方が有能である、と王に認めさせれば、口を挟める人間などいないハズだ。
おまけに今年はちょうど、クルトの父親である騎士団長が退任する。つまり、騎士団長の座がガラ空きになるという訳だ。
今まで騎士団長という存在に興味など無かったが、いざ騎士団長を目指すとなればこれほど都合の良いことは無い。まるで神が俺に味方しているようだ。
「——あのー? 話が全く見えてこないんだけど……? ——え、さっきまで魔物に復讐するとかわけ分かんないこと言ってなかったっけ⁉」
——そうと決まれば、一秒たりとも時間を無駄にするわけにはいかない。
俺は随分と昔の話をしているシラの腕を掴んで、シラが宙に浮くほどに全速力のダッシュをかまし、夜の王都へと戻った。
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