——対人戦闘——
——俺の冗談にいきりたって教師が怒鳴り声を上げ、午前中に散々聞かされた言葉を放ち、俺は「またそれか—— 」と思ってため息をついた。
百歩譲って、いやどれだけ譲ったところで、俺が脅した奴に「脅して悪かった」と謝る道理はない。そもそも、喧嘩両成敗という言葉を知らないのだろうか。
喧嘩になっていたかどうかは怪しいところだが、喧嘩をしたからにはどっちも悪いというものだろう。
つまり、俺が謝る必要なんて微塵もない訳なのだが—— 。
何故この教師は謝罪を、しかも授業の始まりである今、このタイミングで要求してきたのかさっぱり分からない。
「謝罪…… なぁ。アンタが今ここで、俺が謝罪するべき理由を挙げられるなら謝罪してやるよ」
—— さっきと同じように否定だけするのはつまらない。
そんな風に思って俺が言うと、教師は持っていた木造の模擬剣を肩に担ぎ、自慢気に話し始めた。
「おまえ、朝の件忘れたわけじゃねぇよなぁ? あれがあったせいで、いったいどれだけの生徒が怖い思いをしたと思ってんだ? 聞けば生徒を殺そうとしたらしいじゃねぇか。だから謝罪しろって言ってんだよ。相手に嫌な思いをさせたら謝るのは当然だよなぁ?」
周囲に同調を求めるような話し方をする教師に、俺を囲むように立っていた生徒たちが一様に「その通りだ! 謝罪しろ!」と言い出す。
そのバカさ加減に俺が言葉を失っていると、俺が言い返せないと勘違いしたのか、教師が勝ち誇ったような笑みをしながら「謝罪コール」を始めた。
「いいか? クラスメイトを殺そうとしたお前は謝罪しなきゃクラスの一員じゃねぇんだよ! 謝罪しろ! 謝罪!」
バカの一つ覚えのように「謝罪」という言葉を繰り返す教師—— と、他の生徒達。
そんな、脳みそが腐り果てた人間の行動が余りにバカバカしくて、俺は笑い声を上げた。
「—— フッ…… ははは! 惨めだな! 謝罪しろと言われて俺が素直にすると思うのか? 思うんだとしたら筋金入りのバカだ! 思ってないなら力ずくで俺に謝罪させればいいってのに。謝罪しろと喚くことしか出来ないなんて、自分から弱さを証明してるようなもんだろ!」
俺が笑い声を上げたことで場が静まり返る。一番声を出していた教師の声すら聞こえなくなり、大人しくなったかと思ったのだが—— 。
サラマンダーの鱗のように顔を真っ赤にした教師が、もはや顔の原形をとどめていない程、怒り狂った形相で俺を睨んでいた。
「—— あぁ⁉ 誰が弱いだと⁉ 舐めてんのか、おまえ‼ …… もういい、俺とサシで勝負しろ‼ 徹底的にボコして、その腐りきった態度を叩き直してやる!」
「—— かかって来いよ。お前にそれは出来ないと思うけどな」
投げ渡された模擬剣を受け取りながら、初めての対人戦に心躍らせた。
◇
「…… ルールはどちらかが降参するか、先に体へ攻撃を当てた方の勝利とする。—— 本当にいいんだね?」
「構わない、早くしろ」
レフェリーとして選ばれたクルトが、「やめた方がいい」と言わんばかりに確認を取ってくる。
「相手は真剣だ、模擬剣じゃない。……一撃でも貰えば、確実に君は死ぬぞ」
「お前に言われなくても見りゃ分かる。早く始めろ」
お前に気を使われる筋合いはない—— と言ってやりたいところだが、今回ばかりはクルトの言うことも分かる。
傍から見れば真剣対模擬剣の試合なのだ。どちらが有利かは明白だろう。
——だが、真剣というものはそこまで万能じゃない。
使い手の技量次第で模擬剣以上にも以下にもなる。つまり、勝負の前から負けが決まった負け戦という訳ではない。
「おいおいおい。なんだぁ⁉ まさか真剣見てビビっちまった訳じゃねぇよなぁ?おまえが言ったんだぞ? ハンデをやるってよぉ‼」
試合がなかなか始まらないことにしびれを切らしたのか、相変わらず怒りの形相をした教師が催促してくる。
俺としても早く始めたいのだが、このレフェリーのせいで一向に始まる気配がしなかったのだろう。
—— だが、教師に催促されて流石に俺の説得を諦めたのか、クルトは俺と教師のちょうど中間地点に位置取りため息をついた。
そして、上げた手をそのまま振り下ろし、空を切った。
「…… それじゃあ、始め!」
乗り気でなかったにしては覇気のある声で、俺と教師の試合が始まった。
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