第16話 上書き

 バケモノ退治をする怪物三人。

 やがてその最後の一人も……


「ダスゲデ、レーガサマアア! ――――ペギュ」


 容赦なく狩り取られた。


「ふぅ……終わったか……」

「あー、ちょっと汗かいちゃった~、でもぉ、私たちサイキョ~!」

「ミッションコンプリートってやつだし~、あーしらtueeee!」


 村を襲ったバケモノは全滅。

 周囲に他のバケモノの気配もなく、これで一件落着と剣を鞘に納めるユーキ。

 だが、ホッとはしてもその表情は晴れてない。


「見たこともないバケモノ……『一匹』ぐらい捕獲しても良かったかもしれないが……それにしても……むごい……」


 駆けつけた時には既に間に合わず、救えなかった命が沢山ある。

 自分と同じ、王国に仕える兵や村の男たち、弄ばれた挙句にむごたらしく殺されている女たち。

 バケモノたちを全滅させてもなお怒りと悲しみが込み上げてくる。

 それに……


「……ねえ、大丈夫ですかー?」

「もう助かったんだし、ほれ、あーしが治してあげるから……」


 まだ生き残っている女たちも、色々なショックやトラウマで心を壊しているのか、皆が人形のように無感情になっていた。


「ユーくん、この人たち……どうしようか?」

「いずれにせよ、もうこの村には住めないだろう。後に騎士団も駆けつけるだろうから、彼らに保護してもらい、その後の身の振り方などを……」


 命はあるが、心は死んでいる。そんな女たちの様子に胸を痛めながらも、これ以上のことを自分ではできないことに歯噛みするユーキ。

 そしてそれは、ノアとココアも胸が痛んだ。


「ひどいよね……あんな気持ち悪い奴らに犯されて……この子なんて、私よりも……ユーくんよりもきっと歳が……」

「まぢだし……ほんっと、この異世界……楽ショーかと思ったら、まぢハードだし……」


 性被害というものは、ノアとココアの世界でも問題となっている犯罪である。

 その被害を受けた女がどれほど生涯を狂わされるか、どれほど心が狂わされるか、それは異世界だろうと同じだろうと、ノアとココアも感じていた。

 いかにチートがあろうとも、それを癒すことはできない。


「……ッ!? ぐっ、じ、自分は何を……」

「え? ユーくん?」


 そのとき、神妙な顔をしていたユーキがハッとして、己を恥じるようにしながら女たちから目を背けてその場から離れようとする。


「ちょ、ユー、どうしたし?」

「な、何でもない! じ、自分は何でもない……自分は最低で、だ、だから、少々この場から……」

「は? 何言ってんだし! こういうときだからこそ、せめて勇者が傍にいて安心させてあげるのがいいはずだし!」

「だ、ダメだ、自分はあまりにも最低の男で……だ、だから、この場に居るわけには……」

「ちょ、急にどうし……あ……」


 急にこの場を後にしようとするユーキをノアとココアが慌てて掴んだ。一体どうしたのかと。

 すると、ユーキの体の一部を見て、その理由を理解した。

 バケモノたちに犯されていた女たち。その身体は衣服を破られ……つまり、ほぼ裸の女たちばかりである。

 そしてユーキはノアの治癒魔法によって傷だけでなく、体力も、そして精力まで完全回復したのだ。戦いの最中など前屈みになるほど。

 だからこそ……


「自分は最低だ最低だ最低だ」


 犯され傷ついた女たちの姿に、情欲を抱いてしまった。

 そんな自分を心の底から恥、今にも頭を地面に叩きつけてしまいそうだ。

 だが、ここでノアとココアは閃いた。


「あ……そうだ!」

「な! 上書きすりゃいいし!」


 悪夢の上書き。

 それは……


「ほれ、ユーくん、脱ぎ脱ぎしようねぇ~」

「さっさとすっぽんぽんになれし!」

「はっ!? ちょ、何を、いや、何を?!」


 突如、ユーキを挟み込むのノアとココア。

 そして二人はそのまま、ユーキのズボンを一気にズリ降ろして、傷ついている女たちへ押し出した。



「わ、わァあ!? え、いや、な、なんで?!」


「「「「ッッッッ!!!???」」」」 



 女たちに刻み込まれた最悪の思い出。


「ひ、う、うう、い、いや、男……いやぁァァああ!」

「うい、え、えっぐ、えええ、やだァ、おかーさん、おとーさん、うぇえええん」

「ひいい、お、おたすけを、か、神よ……」


 思い出しただけでも涙が出る。

 ましてや今は男が傍にいるだけでもフラッシュバックで発狂してしまう。

 それなのに……


「ねえねえ、君もお姉さんたちも、つらかったでしょ? だからさ、ユーくんとエッチしよーよ!」

「あんなキモイ奴らのことなんか忘れてさ、イケメンかわよな勇者とべろべろチュパチュパなエッチして忘れるっしょ!」


 そのトラウマを加速させるようなことを二人は提案した。


「ななな、なにを言ってるんだ、二人とも! ふざけるな! 彼女たちを何だと思っている! 最悪な行為によって心も体も傷つけられた女性たち……中には……きっと初めてで、嫁入り前に――――」


 二人のありえない提案に激怒するユーキ。

 しかし、二人はケラケラと笑いながら……


「もうさ~、い~じゃん別に~、今更~結婚するまでエッチしないとかフツーにやばいよ?」

「そーそー。どーせ女はそのうち、数えらんないぐらいチューもするしエッチもするし、それならもう開き直ってエッチそのもの楽しんじゃうぐらいに改変してさ~」

「そういうこと~! それに~、ユーくんは勇者だから~、勇者とエッチした女に慣れたらすっごい自慢になるよ~みんなァ?」

「そーそー。んで、ユーキは生真面目責任感くんだから、ユーもエッチした女の子は無下にしないだろーから、ちゃんとこの後のことも人任せにしないと思うよ~?」


 と、あまりにもバカげた発言をする。

 一度は見直したり、感心したり、そして今回は助けてもらったりと色々と二人への評価が変わりそうだったユーキだが、このバカげた提案にはもはや激怒。

 その顔は先ほどのバケモノと対峙するとき並に憤怒に染まる……が……


「ひいい、こ、こわい、う、うう……」

「あ、す、すまない、お嬢さん……怖がらせてしまい……」


 その場にいた年下の少女が、ただでさえパニックだったのに、ユーキの怒気に触れて余計に震えてしまった。

 そんな少女にユーキは顔を覗き込み……


「すまない。でも、安心してくれたまえ」

「え……」


 優しく頬を撫でた。


「あっ、しま、触れるのも嫌だったよね?」

「ッ、あ……」


 もはや男性恐怖症になってもおかしくない少女だったが、何故か触れられたユーキの手に涙が止まった。

 それどころか、申し訳なさそうな表情を浮かべるユーキの顔に見惚れてしまった。


「あっ……♪」

「これがニコポナデポ」


 そんなユーキと少女のやり取りに、ニヤニヤするノアとココア。

 そして少女は……


「ゆ、勇者様……」

「なんだい?」


 吸い寄せられるようにユーキに飛び込んで……



「……ぜんぶ、わすれさせて」


「…………え?」



 






 結局この後、「私も!」「私も!」と傷ついた女たちがユーキに群がり、ユーキはメチャクチャエッ――――

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