第12話 チョロいからのシリアス

「うわ、すごっ!」

「リアル金髪縦ロールのですわ姫様ッ!?」


 現れた人物に二人は思わず口に出してしまった。

 誰が見ても分かるゴージャスなドレス。宝石などの装飾品を身に纏って輝き、そしてクルクルのロールした髪型にツッコミを入れない方が無理だった。


「ば、ノア、ココア! ひ、膝をついて!」

「姫様、こ、これはお見苦しいところを!」

「あ、ごめんなさーい」

「さーせん!」


 慌ててユーキはノアとココアを引っ張って膝をつく。

 騒いでいたクレイアも同様。


「オーホッホッホッホ、珍しいですわねぇ、お二人の喧嘩など。でも、ダメですわよぉ? 愛しのユーキ様ァ」

「フォルティア姫、も、申し訳ありません。その、お騒がせを……」

「まったくですわァ~! 夫婦喧嘩も人前でするものではないですもの! にしても、ユーキ様とクレイアで口論とは珍しいですわ。何かありまして?」

「そ、それは、姫様、ユーキが……そ、その、あのユーキが奴隷娼婦を飼おうとしていましたので……」

「ハっ?」


 胸を張り、他者を見下すように高らかに笑うフォルティア。

 だが、それもクレイアの一言でピタッと止まった。


「……娼婦? ユーキ様……ユーキサマ?」

「違います、姫様! クー姉ぇも! 順を追って説明を……」

「ユーキ様ァ? ユーキ様は選ばれし勇者。その子種は是非とも国中にバラまくのは責務の一つですわァ? しかし……その相手も当然厳選し、何よりも最初の子を生むのはワタクシ……ワカッテマシテ? 奴隷? ドウイウコトデスノ? デスノ?」


 微笑、しかしその目は病んでしまっているかのように禍々しさを一瞬で発した。


(あーあ、なんかまた同じことに……)

(めんどくさ、重……ユーもかわいそ)

(どーする? 私たちがまた止めても怒られるだけだよね?)

(ん~、ここは止めるより……しゃーないなァ~。助けたげよ)

(どうやって? 聞く耳持たないよ?)

(だいじょーぶ。こういう系は事情をうまく説明するんじゃなくて、とにかくおだてるの)

(おだてる?)

(そーそー、昔っから漫画でもこういう「ですわ」なお姫様お嬢様はとにかく過剰なまでに褒め称えるのがお約束)


 また責められるユーキ。

 結局クレイアだけでなく、フォルティアも加わってユーキを追及する。

 説明をしたいユーキだが、色々と順を追って説明する中で当然「ノアとココアといっぱエッチして童貞捨てた」という話題も頭を過り、これを口にしたらどうなってしまうかと、半分泣きそうであった。

 すると、哀れに思ったノアとココアは……



「もー、流石はご主人様。身近にこんな女神のように美しい女性が傍にいたんじゃ、私たちのことまるで相手にしないのは当たり前だよね。なんてお似合いなんだろう!」


「そーそー。助けてもらい、身分もないあーしらができるお礼なんて、この身体を使ったお礼だけなのに、『裏切れない許嫁が居る』って言って、誠実を貫いてんだもん」



 と、わざとらしいぐらい大声でそう言った。

 


「「へ?」」


「の、ノア? ココア?」



 本来なら姫の言葉を遮るような不届き者と処されてもおかしくない。

 しかし、二人の言葉にフォルティアとクレイアはポカンとした。



「助けてもらったものの、行く当ても帰る場所もない私たち……できるのはこの身体を使ってのエッチな御奉仕だけ……だけど~、御主人様は私たちを頑なに拒絶! 絶対に手を出さず、許嫁がいるからと……も~、妬けちゃうな~!」


「許嫁のお姫様のことを、幼馴染の許嫁を、も~よっぽど好きなんだろうな~って惚気られちゃって~、あーしらまぢショック~、据え膳喰われぬ女の恥?」



 ユーキは二人が何を言ってるのか分からなかった。

 何故なら、ユーキはバリバリ二人に手を出した。誘惑されたとはいえ、理性が崩壊して最後は自分の方から二人を食らった。

 それなのに、二人は「手を出されてない」と平気でウソをついた。

 そして……


「ま、まぁ! そ、そう、ですの。まぁぁ! ユーキ様ったら……ま、まあ! あらあらあらぁ!」

「う、裏切れない、い、許嫁……よ、よっぽど、あわわ……ゆ、ユーキ……そ、そうなのか? お、お前は頑なに我らに手を出さぬし……て、てっきり本当は……」


 先ほどの怒りから一転し、フォルティアとクレイアが顔を赤くして狼狽える。

 その様子を見てノアとココアは目が光る。


「そうなんですよ~! ご主人様ったらそういうことに対して『将来を誓い合った女性との結婚式の夜にするもの』って言うんですよ~」

「それな! それまでは禁欲~みたいな感じだし~」

「ふぇ!? けけけ、結婚式の夜……そ、それは本当ですの、ユーキ様! た、確かにそれは素敵ですが、そういうのはもっと早くで構いませんことよ!」

「そ、そうだぞ、ユーキ! いくら我らが許嫁とはいえ、式はまだ先だし……そ、それまで禁欲とか生殺しとか、そ、それはあまりにも……わ、我はいつでも……」

「そうですそうです。で、ご主人様に~『性欲ないんですか? 女の子に興味ないんですか?』って聞いたら~、ご主人様ったら……ねぇ♪」

「許嫁のために全てを我慢してるって……結婚式の夜まで我慢するなんてかわいそうで辛そうで……よよよよだし」

「ッ!? ユーキ様、我慢など……そんなお辛いのであれば……クレイア! 本日のこの後の予定は全てキャンセルですわ! さ、ユーキ様、いますぐにでも!」

「ユーキ、も、もう、我慢するな! 分かった、い、いいんだ! い、いくらでも我をぉお!」


 気づけば、ユーキを咎めていた二人がノアとココアのウソに流されて、ユーキに感激したように詰め寄って、一応は周囲にも人もいるというのに大声で叫んでいた。

 

「あ、え? あ、あの……」


 ノアとココアの発言は全部嘘であり、真面目なユーキは訂正しようとするも、感激しているフォルティアとクレイアに胸が痛んで何も言えない。

 一方で、ノアとココアは嘘つくことに何の心も痛まず……


「まぁ、素敵~、こんな美しい方々とご主人様の子供だもん……天使のような子供だろうな~」

「そんな素敵な子供をご主人様はさっさといっぱい作れしだし~」


 と、むしろニヤニヤしたまま煽る。



「おほほほほ、あなた方、奴隷ではありますがちゃんと弁えて、そして物事を分かっているではありませんのぉ!」


「嗚呼、なんて美しすぎて眩しい! 自分が惨めになります! あの、ひょっとしてお姫様は仮の姿で本当は女神さまですか?」


「これほど美しい生命が存在するなんて信じられないし……そっか、これほど美しい存在に無闇やたらに手を出せないご主人様の気持ち分かるし~」


「そーでしょうそーでしょうそーなのですわ~~~!」



 もうこれでもかと胸を張って体が反り返るほどの上機嫌。



「姫様、少々落ち着かれた方が……しかし、ユーキ……そ、そうだったのか……」


「そーなんですよ~、ご主人様ったら、私たちがエッチに迫ってオッパイやパンツ見せても、『自分にはクー姉ぇが』とかって……も~、女として傷ついちゃうよね~」


「あーしらのオッパイ見ても興奮するどころか、誰か違う人を想像しているみたいで……ま、誰のことなのかすぐ分かったし~」


「も、もう、ユーキ……お、おまえ、え、えっち」



 クレイアも満更でもなく、冷たく厳しい女騎士でも嫉妬に狂った重い女でもなく、ただの頭の軽い蕩けた女の反応でクネクネとしていた。


「おほほほほ、流石はユーキ様、奴隷とはいえ実に見る目のある奴隷を飼われていますわね!」

「は、はい? え、あ、あの……」


 そして、機嫌がよくなっただけでなく、姫公認でなんやかんやでユーキの奴隷となったノアとココアだった。


「えっと、あ、姫様……この奴隷たちをユーキが飼うことは……」

「ええ、構わないのではなくて? 分を弁えているようですし」


 決して二人は分を弁えてはいないとユーキは心の中でツッコミ入れたが、とはいえこれでこのままであれば、何事もなく平和に終わる。

 そう思った……



「急報ぅぅぅぅぅう!!!!!」


「「「ッ!!??」」」


「「??」」



 その時だった。

 突如、甲冑に身を包んだ兵が慌ただしく宮殿内に駆け込んできた。


「なっ、アレは……確か、南の森の守備兵……何事だ? 姫様の御前であるぞ!」

「あ、こ、これはクレイア様……申し訳ありません、しかし今すぐ陛下……あっ、ユーキ様ッ! ユーキ様、どうか、どうかお助けくださいッ!」


 よほど慌てていたのだろう。

 駆け込んだ兵は、その視界に入ったユーキにすぐに縋りついて助けを求めた。

 姫の前で、ましてや報告には順番やらそういった常識もある中で、その兵はあまりにも切羽詰まった表情をしており、とにかく只事ではないということは理解した。

 そして……


「み、南のレイブレイーブ村に……と、突如、い、異形のバケモノが襲撃……」

「バケモノ? しかし、あの村の近くにはそれなりに守備兵が―――」

「しゅ、守備兵は……じゅ、蹂躙され、わ、私は何とか逃げ延びましたが……他の伝令も、じ、自分を残し、皆殺しに!」

「ッ!?」

「奴らはとてつもない強さで、我らの魔法も剣もものともせず……そ、そして、や、奴らは、こ、このままでは、む、村人も……どうかお助けをッ!」

「ッ!?」


 泣きじゃくる兵士は必死に求める。

 助けて、と。


「姫様、自分が行きます! 今すぐ動ける騎士団に出撃の号令を陛下に!」

「わ、分かりましたわ!」

「自分は先に行きます!」


 その求めに躊躇などするはずもない。

 ユーキはすぐに勇者としての表情、および空気を放って言葉を放ち、振り返らず誰よりも早く駆け出した。


「ま、待て、ユーキ! 一人で飛び出すな! くっ、馬鹿め……数も敵も詳細も分からず……おい、お前! 敵は一体何人だ? モンスターであれば何族だ?」

「っ、わ、分かりません……見たこともない姿をしており……」

「なに?」

「た、ただ……奴らはこう言っておりました……『レーカ様に捧ぐ』と……」

「レーカ? 何だそれは……」


 普段はただのモンスターごときでユーキもクレイアたちも揺るぐはずはない。それどころか普通の守備兵や騎士団で十分に対処できるほど、王国の兵たちは精鋭ぞろいである。

 それが、壊滅して、その生き残りの兵もここまで怯えている。

 敵は一体何者なのかと、クレイアは胸騒ぎがした。


「クレイア。いずれにせよ、すぐにお父様に事態を報告と、即座に騎士団に」

「はっ!」


 いずれにせよ、このまま考えても仕方なく、まずは動くしかないと、フォルティアも姫としての振る舞いを見せる。

 そのとき……



「……あら? そういえば、あの奴隷娘二人は?」


「え?」


 

 ノアとココアがいないことに気づいた。



 

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