第11話 ザ・女騎士

「わ~、お城だ~! 夢の国のアレと違って、まさに本物!」

「うはァ、ファンタジー来て、勇者と出会って、いきなり王様と出会う! もう、ファンタジーすぎだし!」


 ユーキに連れられて王都の宮殿に足を踏み入れる二人。

 本来、城の関係者以外であれば、平民はおろか、貴族でさえも足を踏み入れるときは畏まるもの。

 それがただの観光客のようにハシャいで目を輝かせているので、ユーキは慌てる。


「私語を慎むように! 二人は自分が保護できるよう何とか便宜を図る。だからせめて、周囲に変に思われぬよう、そして失礼のないように頼む」

「は~い、御主人様~!」

「だいじょーぶだって、あーしらはちゃんと空気読むし!」


 心配ないと笑う二人だが、ユーキは気が気ではなかった。

 外套を纏わせて隠してはいるが、その下は娼婦と思われても仕方のない露出の多い格好をしている二人を連れているのだ。

 こんなところを……


「おお、ユーキ! 来ていたのか!」

「ふぁっ!?」


 そして、こんな時に限って、遭遇してしまうものなのだ。

 クレイアがユーキを見つけて駆け寄ってきた。


「く、クレイア殿。お疲れ様です」

「うむ。お前もな。それと、先ほど街の警備隊から聞いたぞ! 何やら、お前が随分と民衆に対して温かく接していたと。見た者たちは皆感激していた」

「そ、そうですか……そ、それは……」

「まったく、我にはそのような一面をなかなか見せんくせに……」


 ユーキを見つけ、先ほどの街での出来事を聞いていたようで、とても嬉しそうに話をするクレイア。

 既に街以外でも噂になっているのかと恥ずかしくなるユーキ。

 一方で……


(ちょっ、ココア……す、すごい、この人……)

(うわっ……美人の女騎士ッ! すご、これぞファンタジー! スカートも短くてエロい……「くっころ」って言わせたいし!)


 まさに物語の世界に登場するような女騎士が目の前に現れたのだ。

 オタクのココアはそれだけで目を輝かし、そしてノアは……


(っていうか、この人……一見、キリっとした感じに見えたけど、ユーくんと話している様子……)

(な、雌の顔してるし)

(わぉ、さすがユーくん。隅におけないね~)

(たぶん、普段はクールな女騎士で、ユーにデレてるタイプだし……)


 一瞬で、クレイアのユーキに対する態度から色々と察した。

 そんなことをコソコソ話をしていると……


「ん? ところでユーキ。後ろの娘たちはなんだ?」


 そんな二人に、上機嫌だったクレイアも気づいて、少し眉を顰める。


「あ、ああ、彼女たちは……そ、その、実は森でオークたちに襲われ……そ、その、乱暴されそうに……」

「ッ!? そうか……」


 ユーキがそう口にした瞬間、ハッとしたクレイアはすぐに態度を変えて、ノアとココアに歩み寄る。

 皆まで言わなくとも今ので察したようだ。



「オークたちに……か……色々と辛かったであろう」


「「あっ……」」



 そして優しく、そして頼もしくギュッと、ノアとココアの手を掴んで握った。


「職務上、そして今のこの世界の情勢からも、そういった女を私も腐るほど見てきた……だが、今は命あることを幸いと思うことだ。勇者ユーキの手で救われたのだからな」


 実際のところ、ノアとココアはオークたちに襲われそうになったが、全員返り討ちにして皆殺しにした。

 別にユーキに救われたわけではない。

 しかし、今はそういうことにした方が良いかと頷いて。



「「はい、私たちはご主人様に救われて幸運でした~」」


「うむ……ふぇ!?」


「ちょ、ま、まっ!?」



 こういうことにしておけば正解だろうと思ったノアとココアだったが、クレイアは再び眉がピクリ、ユーキは噴き出して慌てた。



「ご、ごしゅじん、さま……だと?」


「「あれ?」」


「ち、ちが、待って、クー姉ぇ、説明を……」


「ど、どういうことだ、ユーキッ! っご、ご、御主人様とは、なな、なん、なぜ!?」


「「クー姉ぇ??」」


 

 慌て、そして激しく動揺、同時に怒りも滲み出た表情でユーキを掴んで前後に振った。

 ユーキも慌てていたため、クレイアへの呼び方がつい……


「御主人様とはなんだ!? ま、まさか、この二人を……」

「そ、その、二人を保護したのはよいが、二人は訳アリで、身分を証明できるものがなく……どうやら異世界から来たようで、このまま奴隷になるぐらいならエッチに、じゃなくて、じ、自分に身を預けたいと……」

「何を言っている!? っというより、ふざ、ば、バカを言うな! お、お前はこれまでも多くの民を救ってその度に惚れられてきていたが、決して誰にも手を出さなかったではないか! そ、それが何故この二人に……ど、同情か?」

「そ、それもあるが、えっと、なんというか……」

「だいたい、身分が無いのであればキチンと取り調べてからでないとダメではないか! 勇者であるお前なら多少の好き勝手できる権限はあるが……というか、奴隷が自分の身を希望を出してお前が受け入れる等……そんなことをやっていたらキリがないぞ!」

「そそ、そうなんだけど、こ、今回は、そ、その色々あって……」

「だ、ダメだダメだ! こ、こんな若い娘を、ど、奴隷に等……もし何かあったら……い、いや、仮に何もなくても変な噂だって立つかもしれぬ!」


 一気に強い口調でまくし立てられ、しどろもどろになるユーキ。


(はは~ん、嫉妬だね~)

(しかも、『クー姉ぇ』とか呼んでるあたり、幼馴染のお姉さん的な?)

(ひょっとしてさ……幼馴染っていうだけじゃなくてさ……このお姉さん、ユーくん好きだよね)

(あっ、許嫁ってお姫様以外にもいるって言ってたし……ふ~ん、へ~)


 そんな二人の様子を見ながらニヤニヤが止まらないノアとココア。



「お、お前の友として、姉として、い、いい、許嫁として、そのような妙な噂が立ちそうなことがあってはダメだ!」


((あっ、やっぱりこの人が許嫁))



 二人のやり取りだけで関係性がよく分かった。

 

「もー、落ち着いてくださいよ~、えーっと、クーさん?」

「そーそー、あーしら別に、御主人様に迷惑かけないし~」


 とりあえず仲裁しようと間に入ろうとするノアとココア。

 だが、それが思いっきりクレイアの逆鱗に触れた。


「ッ、貴様ら! 奴隷の分際でなんと無礼な! 我を誰と心得るッ!」

「「うわっ!?」」


 先ほどまでは二人を「傷ついた少女たち」のように扱っていたクレイアが、急に態度をコロッと変えて、仲裁に入ろうとした二人を跳ねのける。

 そのとき、クレイアの腕が二人の外套にあたり、二人の該当が飛び……



「……なっ……」


「「あ……」」


「わっ、く、クー姉ぇ!?」



 外套の下から、へそ出しブラ丸見え、超ミニスカートという、あまりにも露出の激しい二人の姿があらわになった。


「な、なんあ、あ、あ……ユーキ……」

「待って、クー姉ぇ! こ、これは二人の故郷ではどうやら普通の――――」

「何だこの二人はァァあああ! どう見ても娼婦ではないかァァァァ!? き、貴様ァァあ、我にはまるで手を出さんくせに、よ、よりにもよって、行きずりの娼婦とッッ!?」


 余計に怒り狂ってユーキの胸倉をつかむクレイア。

 もはやクレイアの中ではノアとココアは身分証のない娼婦に確定してしまったようだ。


(あははは、娼婦だって……)

(ま、実際エッチしたから否定できねーし? 性奴隷フレンドとしてこれからもするし?)

(でも、このお姉さんもダメだよね~、こんなこと好きな人にするなんて)

(な。クーデレなのかツンデレなのか知んねーけど、もうラノベでも流行んないし)


 もはや聞く耳持たないクレイア。これ以上仲裁に入ろうとしたら余計に怒られるだろうと苦笑するノアとココア。

 すると……



「ちょっと、騒がしいですわァ! 一体何事ですのぉ?」


「「ッッ!?」」


「「うわっ!?」」



 更なる混乱を招く存在がこの場に現れた。

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