第10話 神対応
まずは、異世界から来た二人の今後の身の振り方について。
そのためにすべきことは二人のことを報告。
いくら奴隷にするとはいえ、ユーキも誰にも何も報告も相談しないというわけにはいかない。
だから城に連れていき、この国の王や博識な賢者などに相談するというのは当然であった。
異世界の存在というのは半信半疑のユーキではあるが、それでも二人が持っていたスマートフォンや映し出された画像・動画機能などは未知の技術であることに変わりなく、ユーキとしても上への報告は必須であると考えた。
「へいか……陛下!? すごーい、え、いきなり、王様と? 総理大臣とか大統領にいきなり会うようなもの? 勇者に続いて王様とか、私たちすごいよね!」
「もう陛下っていったら、天皇陛下っしょ! 海外ならエリザベスっしょ! うわ、現実世界でもそんなことありえないのに、いきなり王様に会えるとか、流石異世界! でも、意外とケチで10ゴールドとか銅の剣とかしかくれないとかあるかも!」
真面目なユーキと打って変わって、ノアとココアは非常に楽観的で、むしろ「王様」というワードに大興奮してはしゃいでいる。
「お、おい、くれぐれも無礼な真似はよすのだぞ? そ、その、いやらしいふるまいや発言など……」
「だいじょーぶだって! 私たちだってそれぐらい空気読むってぇ~」
「そーそー、ユーとエッチしたことだって内緒でしょ? ギャルだって空気読むんだから安心しろし」
二人は心配ないというが、ユーキは不安でたまらなかった。
すると……
「あ、ユーキ様だぁ!」
「勇者だぁ、カッコいい! すっげー!」
「ユーキ様を見れるなんて今日はついているぞ」
「な、ななな、勇者様が若い女を連れているぞ!?」
「しかも、何だか肌の露出が……娼婦!?」
「嗚呼、今日も素敵……あの御方の子種を戴ければ一生安泰……」
王都に足を踏み入れた瞬間、ユーキの周りで民たちが大騒ぎ。
「うわぁ……なんだか、スターだね、ユーくんって」
「芸能人とか有名配信者が現れた感じみたいだし」
勇者というのは伊達ではない。
人気も人望も、何よりも人々がユーキを見る目が、ただのミーハーというものではなく、心から慕っているような目をしているのが、ノアとココアには驚きであった。
「勇者様ー!」
「勇者様、俺たち、強くなっていつか勇者様と一緒に戦えるようになります!」
「なります!」
特に子供たち。男の子たちからは憧れられ……
「うむ」
「「「ッ~! 勇者様に頷いてもらったー!」」」
そんな男の子たちにユーキは頷き……
「勇者様……あの、お花……」
「……うむ」
「わぁ……お花うけとってもらえた……わーーーい///」
幼女からは花をもらいながら真っすぐな目でお礼をいい、幼女は真っ赤になって見事に初恋に叩き落す。
「すごいねぇ~、ユーくん。でも、もうちょっとサービスしてもいいかな?」
「それな! もうちょい笑えばいいのにさ~あの『うむ』とか何キャラだっつーのぉ」
慕ってくる民たちに対して、勇者としてのふるまいを見せるユーキ。
そんなユーキに「流石勇者」と思う反面、もう少し笑顔を見せてもと思う二人だったが、そんな二人の想いとは真逆に、ユーキはだんだん顔を曇らせる。
「……自分はもう穢れた人間なのだが……」
「「あちゃ~」」
純真無垢な子供たちのキラキラとした目で見られるほど、いたたまれなくなるユーキに、ノアとココアは「また始まった」と苦笑してしまった。
「もー、そんなこと言わないの! ハイ、サービスサービス! ヒーローは神対応も役目の内だよ?」
「ねーねー、チビッ子~、ほら、そんな顔を真っ赤にしてないで、おいでおいで~!」
すると、次の瞬間、ノアとココアは驚くべき行動をする。
ユーキに花を上げた幼女を呼び寄せて、なんと抱きかかえた。
「わ、あ、あの、何を……」
戸惑う幼女。
ユーキも二人が急に何をしようとしているのか分からない。
周囲の者たちも、ユーキが連れていた名も知らぬ少女二人に戸惑う。
すると……
「ほれ、ユーくん、ちょっと腰降ろして~」
「ぬ? どういうことだ?」
「いーから、屈めし!」
「むっ、む? これでよいか?」
「「おけまる~、おいしょっ! 高い高~い!」」
二人はユーキに屈むように言い、訳も分からずユーキが腰を曲げた瞬間、ユーキの手から花を取り上げ、そしてユーキの両手を少女の両脇に無理やり添えさせ、そのまま抱っこさせたのだった。
「なっ!?」
「うぇ!? え、え!?」
「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
その光景に、民たちは卒倒して絶句した。
ユーキも言葉を失った。
それほどまでに衝撃的な事態なのである。
「あ、あぁ……あああああああ、リロナッ! 何という無礼を……お、お許しを! お許しをッ!」
その沈黙を破ったのは少女の母と思われる女で、泣きながらユーキの前で土下座した。
「あ、ああ、あの娘っ子たち、なな、なんてことをッ!?」
「あの鉄面皮の勇者様に、な、なな、ぶ、無礼をッ!」
「こ、こんなこと、勇者様の逆鱗に触れて……へ、下手したら処罰……」
顔を青くする民たち。
そう、民たちはユーキを慕い尊敬するものの、決して気安い存在ではないということは理解していた。
それこそ、近い将来この国の姫と結婚し、王族入りすることが確定している、自分たちとは天地程離れた身分の相手であり、無礼を働けばどうなることか。
何よりも、普段から生真面目で鉄仮面のような表情のユーキがもしこれで不快に感じて怒ったらどうなるか?
民たちは一瞬で顔を青ざめた。
「い、いや、じ、自分は……」
一方で、ユーキも別にこんなことでどうこうする気など微塵もない。
今はただ、どうしてこんなことをするのかとノアとココアに戸惑っているだけだった。
すると、ノアとココアはニヤニヤしながら……
「もー、ユーくん! 自分のことを好きになってくれてる人には、ムスッとした顔じゃなくて、笑顔を見せるのはスターにとってマストだよ?」
「つーかさ、ユーは勇者なんでしょ? チビッ子のヒーローなんだからこういうサービスもしろし! このお花もらったんでしょ? なら、『うむ』、じゃなくてお礼っしょ! 人として礼儀ってやつ!」
それは、民たちから見れば「何言ってんだこいつら」というようなものであった。
一方でユーキは少し衝撃を受けていた。これまで生きて来てこのようなことを言われたことは無かったからだ。
だが、言われてみればそれは当たり前のようなことであり、確かに自分はこれまで王などから何かを与えられたときは頭を下げて礼を言ってきた。
それが相手が民で、こんなその辺に生えている花だからといって、礼を言わなかったり、ぶっきらぼうな態度を取るのは、果たして勇者として正しい姿なのかと言われたら、確かに違うかもしれないと思い始めた。
だからユーキは……
「そ、その、少女よ……自分は笑うのはそれほど得意ではないが……」
「は、はい」
「そなたの気持ちに……感謝する。花……ありがとう」
「ッッッッ!!??」
ノアとココアが無理やり抱っこさせたものだったが、ユーキは自分の意思で少女を高々と抱き上げて、少女に対して目を見て礼を言った。
「////////////」
ユーキが幼女を母親の隣に降ろす。
幼女はポーっとしたまま微動だにせず、まるで未だに夢の中に居るような状態であった。
「んふふふふふ~、ユーくんそれでいーんだよ! あとは、その手で女の子の頭をなでなで~」
「それな! ほれ、ユー、撫でろし! それとも自分だけじゃなく人にするのも嫌なん?」
「なっ、ば、そ、そのようなことは……ッ……」
そして、そんな少女に追い打ちをかけるように煽るノアとココアに乗せられ、ユーキは少女の頭を優しく撫でた。
「ッッッッ!!!!!???? きゅ~」
「あ、リロナ……あ、あの、あ、ありがとうございます!」
そのまま幸せそうな表情で卒倒する少女。そんな少女を隣で支えながら、母親は呆けた様子でユーキに礼を言う。
民たちも今、目の前で起こった普段のユーキからはありえない振る舞いに未だに言葉を失ったままであった。
そして……
「それじゃ、そこの坊やたちもおいでー!」
「ほれ、来るし! もっぺん、さっき叫んでたことユーに宣言しろし!」
ノアとココアはまた勝手に動く。
先ほどユーキに叫んでいた男の子たちを呼びよせたのだ。
ビクッとする男の子たちはオロオロしている。
そんな男の子たちをノアとココアは手を引っ張ってユーキの前に無理やり連れていく。
そして……
「ほら、せっかくだから勇者のお兄ちゃんにもう一回言ってみて~」
「そーそー、夢、あるんなら言わねーと!」
先ほどと同じことを言え。そう言われるも、男の子たちはビクビクしていた。
大勢の群衆の中から遠くで叫ぶのと、ユーキの眼前で目を見て同じことを言うには勇気がいる。
「だいじょーぶ、ね? まずは自己紹介、ぼく、名前は?」
「ほら、がんばっしょ!」
そんな男の子たちの背中をノアとココアは背中を押すように叩く。
「お、俺、ジャスティスっていいます……」
「俺は……グローリー……」
「オレ……ブレイブ……」
そして男の子たちは半泣きになりながら名前をいい、そして互いに頷き合い……
「「「勇者様! 俺たち、強くなっていつか勇者様と一緒に戦えるようになります!」」」
と、声を揃えて叫んだのだった。
「よくできました!」
「だってさ、ユー」
そんな男の子たちの頭をノアとココアはワシワシと撫で、ニヤニヤしながらユーキを見上げる。
そしてユーキは先ほどノアとココアに言われたこと、そして今の男の子たちの宣言を聞き、色々と心の中で自問自答しながらも顔を上げ、次の瞬間には背筋を伸ばして、腰元の剣を抜いて顔の前に掲げる。
それは、敬礼である。
そして……
「ジャスティス、グローリー、ブレイブ、いつか共に戦える日が来ることを楽しみにしている」
「「「ッッッ!!?? ~~~~~、はいっ!!!!」」」
涙目だった男の子たちの瞳がこれでもかとキラキラと輝いた。
手に持っていた木の枝を掲げて彼らも見様見真似で敬礼する。
その瞬間、男の子たちにとって勇者と共に戦うということは夢や憧れではなく、道となって、この日から彼らが毎日鍛錬を欠かさなくなったのは必然であった。
そして、この一連の光景に言葉を失っていた民たちは、次第に心が大きく揺れ、胸が熱くなり、無礼だとかそういうことが頭から抜け、気づけば……
「「「「「うおおぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「「「「「わぁぁああああああああああ!!!!」」」」」
男の子たちとユーキに盛大な歓声を上げた。
その、いつもと違う民たちからの歓声に、ユーキは悪くない気分だった。
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