第9話 イイコイイコ
「ふぁ~、すっごい……大きいビルとかはないけど、とにかく広い……街並みもなんかキレー」
「おおおお、これぞファンタジーっ!」
ビティガウル王国の王都。
大陸でも有数の強国。その王都となれば広大であり、現実世界では高いビルが並ぶ都市圏に住んで土地の広さなどの感覚に疎いノアとココアには視界一杯に広がる建物や奥に聳え立つ城に爽快であった。
「今日からしばらくここでお世話になるんだね、案内宜しくね、ユーくん♥」
「そーそー、あーしらはユーの奴隷なんだし~♥」
王都を見渡せる丘の上からハシャぐ二人は左右からユーキにピトりと寄り添う。
だが、二人は急に腰がくにゃりとする。
「あっ、あはは……ごめん、ユーくん……こ、腰が抜けてガクガク」
「ほんっと……いくらあーしらの身体にハマったからって、一人五回ずつはやべーっしょ♪」
まともに歩くどころか、真っすぐ立つことすら難しくなるほど腰砕けになっている二人。
そんな二人を支えながら、ユーキは顔を暗くさせて俯いている。
「じ、自分は……何を……」
理性崩壊して暴走した性欲獣となってしまった。
ユーキもようやく落ち着いた正気に戻り、そして同時に激しい自己嫌悪に陥った。
「ユーくん、これって賢者モードってやつかなぁ?」
「にしても、遅いし。あーしらがどんだけ、『らめぇ♥~♥』って言ってもガンガンだったし~」
「ふふ、だよね~。ま、私ももうユーくんにガチモードになっちゃったけど~……たまに逞しいかと思えば、たまに赤ちゃんみたいに甘えてきたり、全部ツボ♥」
「ん。てか、お世辞抜きに体の相性良すぎだったしね。とりま、これからも色々とよろ♪」
これまで誠実に、真面目に、真っすぐに生きてきた。
正義を抱き、誇りを抱き、世のため人のためにと生きてきた。
己など二の次であり、全ては人々が期待する勇者として生きることがユーキの人生であった。
そんな自分が我を忘れ、醜く淫らな想いに支配されて女体を貪りくらった。
「自分は勇者失格……下劣で下賤な最底辺のクズな男だ……」
恥ずべきことであり、そして罪であると、ユーキは顔を上げることができなかった。
だが……
「もー、ユーくん、気持ちよかったからいいよぉ~」
「そーそー、むしろ女を悦ばせたってことでむしろプラス! 誘ったのも先に手ぇ出したのもあーしらだし~」
「うんうん、だ~か~ら、またしようね♪」
「つか、これからあーしらは色々と落ち着くまではユーに世話してもらわないとだし~、そのお礼~、みたいな。パパ活……じゃなくて勇活?」
ノアとアクアは傷つくどころか、むしろニコニコと楽しそうに笑った。
彼女たちからすれば大満足。むしろ、ハマり、これからもしようと誘うほど。
「許嫁が居ながらこのようなことをしてしまった……その罪は償わねばならぬ……と同時に、お前たちに対してもだ……異世界とやらやはぐれた友人とやらのこと、色々と不明なことは多いかもしれぬが、この国に居る限りお前たち二人の安全は自分がどうにかしよう」
「うん、おねが~い♪ っていうか~、そんな罪を償うとか重いからやめてよ~……って思ったけど、ユーくんってそういえば許嫁居るって言ってたね。じゃぁ~、浮気ぃ? もちろん内緒にするけど~」
「勇者の許嫁ってどーなん? やっぱ、どこかの貴族のお嬢様とか、お姫様とか?」
とりあえず、今後の身の振り方が決まるまではユーキが守ってくれるということで安心した二人は「そんなことより」とユーキの恋バナに興味を示した。
ユーキが「許嫁がいる」と言っていたこと。
結局一線超えていまいまくってしまったわけだが……
「え、あ、姫様だ……あと、もう一人姫様の近衛騎士をしているものが……そちらも由緒正しい公爵家の令嬢だ……」
「えっ?! すっご、流石勇者! お姫様と! って、貴族のお嬢様も?」
「なんで!? 二人!? 許嫁二人? あっ、異世界だから重婚が認められてる的な……これぞ異世界的な!?」
ユーキの許嫁。それは王国のお姫様というだけで驚きなのに、二人もいるということに目を輝かせて身を乗り出す二人。
ユーキはそんな二人に若干後ずさりしながら……
「い、いや、まぁ、基本はこの国では一夫一妻なのだが……自分は幼い頃より姫様と結婚することが決められていたので、王族入りすることに加え……そ、その、陛下がな……勇者である自分の血は広めるべきというお考えで……その……こ、これでも譲歩なのだ……へ、陛下はそれこそ自分に、乙女騎士隊や色々な令嬢を宛がおうとして……と、とりあえず、じ、自分は姫様と幼馴染のクレイア殿にと……その……」
非常に言いにくそうにしながら事情を説明するユーキ。
「よーするに、ユーくんは優秀だから種馬になって優秀な子供いっぱい作れ的な~?」
「ははは、まぢでそーいうのあるんだ~。てか、王様公認ならユーももっとヤリまくればいいのに~」
そんなユーキの説明を驚くよりもむしろ納得した二人だった。
「ば、バカを言うな! 自分は勇者だ。せ、誠実でなくては……」
「でも、ユーくんは私たちとしちゃいました~♪」
「はうっ!?」
「つーか、誠実とか関係なくね? ほら、英雄は女を抱きまくれるのは特権っしょ! ユーも童貞卒業してエッチの気持ちよさを分かったってことで、これからはヤリまくりヤリまくり種まき種まき♥」
気楽に品なく笑いながらそう口にするノアとココアにユーキは「ふざけるな」と言いたいが、今のユーキはもはや何も言うことができない。
それほどまで、先ほどやらかしてしまったと自覚していたため、再び頭を抱えて項垂れてしまった。
「あ、も~ユーくん、落ち込まないの~……ほら、いーこいーこ♥」
「そーそー、あんま深く考えんなって~……ほれ、なーでなーで♥」
「ッッ!!??」
それは、何気ないことであった。
ただ、項垂れているユーキを慰めるだけ。
ノアとココアが左右からユーキの頭を軽く撫でた。ただそれだけである。
しかし……
「な、何をすっ……な……え?」
ユーキは過剰に反応した。
信じられないものでも見たかのような反応で、慌てて二人から飛び退いた。
「え、え? どうしたの?」
「なんか嫌だった?」
何か問題があったのかと不思議そうにする二人。
するとユーキは……
「い、いま、自分の頭を……な、撫でた……のか?」
「「はい?」」
頭を撫でる。それは冗談であろうとも、ありえないことである。
「ゆ、勇者である自分の頭を、な、撫でたのか!? 幼い子供のように、撫でたのか!?」
ユーキは勇者である。
そんなユーキにとっての勇者の理想像として、決して甘えの許されないストイックな存在というイメージがあった。
禁欲などもその一つである。
そんな自分が、頭を撫でられた。
それは、幼い頃から自分の人生を振り返っても思い出せないような経験である。
「な、なぜ……そんなことを……自分を愚弄する気かッ!」
ただ頭を撫でられるだけでも、ユーキにとっては異常事態であり、顔を強張らせて声を荒げた。
だが、ノアとココアはキョトンとして……
「なんで? かわいーって思ったから撫でたんだけど、何でダメなの?」
「そーそー、勇者っつったってユーだって男の子なんだから~、女の子に甘えたり可愛がられたって、別にいーじゃん」
と、当たり前のようにそう言ったのだった。
「な、なにを……あ、甘えるだと? 自分は勇者だというのに……」
「だから、そんなのカンケーないよ。する前にも言ったでしょ? カッコ悪いとかそういうの気にしてるの? 何で勇者だからってダメなの? 固すぎだよぉ~もっとこ~、気楽にさ~友達でしょぉ? あ、性奴隷だから、性奴隷フレンドだけど~」
「それな。だいたい、ユーはあーしらと歳変わんねーし、つか、あーしらの世界じゃオヤジが赤ちゃんプレイして甘えるとかいうのもあるんだし」
自分は考え過ぎで、もっと気楽に考えたらいいという無責任極まりないもの。
「勇者である自分が……もっと気楽に……?」
「そうそう。勇者だからって24時間勇者のままなんて疲れるでしょ? もっと肩の力を抜いたり~、たまにはさ、楽しいこととか、もっと色々したほーがいいでしょ?」
「ユーって自分に厳しいんだろうけど、いつまでもそれだったら、何かが起こった時にその反動でもっとヤバいことになっちゃうかもよ? さっきのエッチみたいにさ~。だったら、抜くときは抜かないと~、あーしらは抜いてばっかだけど~、つか、ユーがヌイて欲しければいつでもヌクけど~」
それは、ユーキにとっては衝撃的なことであった。
そんなことを人から言われたのは初めてだったからだ。
「もっと気楽に……肩の力を……か……そういうものだろうか?」
だからこそ、二人の言葉を否定するどころか、不思議と体に染みわたっていってしまったのだった。
「つかさ、子供みたいに頭撫でられるの嫌だって言っても、ユーはもう赤ちゃんみたいにオッパイ―――」
「はうわあ!?」
「あの時も私たち、イイコイイコしてたんだけど気づかなかった~? アレ、可愛くてもっとしたいな~」
「も、もう、もう後生だ、やめてくれぇぇえ!」
頭抱えて蹲ってしまうユーキ。
しかしそれでも、二人が口にした言葉が、どうして頭と心に残ってしまった。
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