第8話 童貞勇者(卒)

 ユーキ・シィーリアス。

 真面目で志高く、曲がったことを好まない。

 それは悪い意味では融通が無く、そして周囲と深い友人関係を作る上で壁となっていた。


『へへへ、なあユーキ、ちょっと来いよ~』

『王女近衛乙女騎士隊が訓練後の風呂だそうだ……ちょっと覗かね?』

『乙女騎士隊いいよなァ~、お前も幼馴染の婚約者の成長を見たいだろ~?』


 誇り高い王国の騎士団……と言っても、誰もかれもが規律や規則に厳しく生きているわけではない。

 任務外の時間や、男たちだけで集まるとそのような下衆な会話は多かった。

 騎士団の中でも一番年下のユーキはいつも大人の男たちからそういった邪な誘いを受けたりしたが、いつも鋭い目つきで拒絶していた。


『恥を知るべきです! そのようなハレンチで愚かなる行為など断じて許しません!』

『なんだよ~、堅い奴だなァ~』

 

 本当は、ユーキも興味はあった。

 勇者であろうと、思春期の青年である。

 しかし、勇者である自分は四六時中誰の前でも正しい勇者出なければならないと己を律し続けていた。


 別に友人がいないわけではない。


 しかし、良いことも悪いことも関係なく本音を曝け出せる友人はいるのか?


 自分のカッコ悪いところを見せられる人はいるのか?


 それは皆無だった。



『ユーキ、こんな所に居たか!』


『……クレイア殿……』


『むっ、お、おい、今は二人だ。そんな畏まるな。二人の時は昔みたいに呼んでくれ』


『そ、そうか……うん、分かったよ、クー姉ぇ』


『はうっ、う、うむ、分かれば良いのだ。……っと、それより、先ほど騎士団の男たちが覗きで捕まったと聞いているが、やはりお前はいなかったのだな』


『あっ……もう、先輩たちは……』


『ふふふ、まったくだ。覗きなど下衆なことをするスケベな男ども……嘆かわしい。これが王国の騎士団の男たちかと……やはりお前以外の男はダメだな。皆がお前を見習うべきだ』


『クー姉ぇ……』


『ま、まぁ、お前にはまだ早いというか、そ、それに、お前が仮にそういうことに興味を持ったのなら、の、覗きなどという情けないことをせず、そ、その、わ、我に言うのだぞ? そ、そのときは……そ、その、わ、我が……』


『ッ!? クー姉ぇ、だだ、だめだってば、もう!』



 許嫁として、血筋も容姿もずば抜けていたクレイアや、姫までもがユーキには宛がわれていた。

 そして、結婚する前であろうと、本人から家族に至るまでもが、許嫁たちとユーキが肉体関係を持つことを公認どころか望んでいた。

 ユーキはその度に何かと理由をつけてそれを回避しつづけていた。

 

『も、もう、ま、真面目だなユーキは…………』


 本当は興味津々だった。

 女性の胸は、尻は、身体はどれほど柔らかいのか。スカートの丈が短い王女近衛乙女騎士隊の制服にドキドキしていた。

 許嫁であるクレイアは誘惑の気持ちもあるのか、少し無防備にスカートの下の下着を見せようとしてきたし、姫であるフォルティアも胸を体に押し付けて着たり、どうにかユーキを『その気』にさせようとしていた。

 しかし、ユーキは興味ないわけではなく、耐えているだけだった。


 勇者である自分が、エッチなことに興味があると思われたら、周囲はどう思うか?

 クレイアやフォルティアは誘惑してくるが、いざそういうことになった場合に、自分のカッコ悪いところを見られて失望されたら?


 そう、良い意味でユーキは真面目であったが、悪く言えば融通が利かなく、そして何よりも実は女性や性に対して臆病だったのだ。


 だから、カッコ悪いところを見せるわけにはいかないと、そういうものに対して拒絶していたのだが――――



「ユーくんって、ひょっとして自分は勇者だからダメだとか思ってるのかなぁ? みっともないとか、カッコ悪いとか思っちゃってる? それ、全然違うよ? いいんだよぉ、おバカさんになっても」


「ユーは固く考えすぎだし! こういうのは勇者も大統領も関係ねーし! むしろ英雄色を好む的にヤリまくりでいいし! むしろ、ユーが夢中になってくれるの見てみてーし!」



 そんな自分に対して、むしろカッコ悪いところを見せていいのだと、出会ったばかりの謎の少女二人がそう告げたのだ。

 それは、ユーキの人生において初めて言われた言葉であった。



「な、何を言う、じ、自分は勇者だ! 王国の誇りである自分が、そ、そのような、ふしだらなことが許されるはずが……」


「勇者でもユーくんは私たちとそんなに歳も変わらないでしょぉ? いつもそんなんじゃ肩がこるよ~? 内緒にしてあげるから~、ね? もう、楽しんじゃおうよぉ~♥」


「そーそー、むしろさ、我慢しないでせいいっぱいヨクボーのまま甘えてくれた方が、萌えるし♥ むしろ、その方が親しみ持てるっていうの? つか、あーしらがもう我慢できないし~♥」


 

 先ほど着たばかりの服を、ノアとココアは今度は自分の意思で脱ぎ捨てる。

 

「あ、あわ、あ、あああ……」

「ほら、ユーくん、見て……♥」

「今日から好きなだけ触り放題食べ放題の奴隷二名ヨロ~♥」


 思考がもうまともに働かない。

 ユーキの両目も血走る。

 ノアとココアは左右から同時にユーキを責め、いやらしく体に触れ、顔や唇にペロペロと舌を這わせる。


「あ、う、ああ、ら、らめだ、ぼ、ぼくは、ゆ、ゆうしゃで……」


 逃れなければならない。

 しかし、ノアのパワーがユーキより上のためか、力づくで逃げることも許されず、ユーキの理性も激しくひび割れ……


「ユーくん、ほら、ここ、フロントホックだから、ここ、ほーら」

「へへ、あーしもぉ~」


―――――ッッッ!!!!????


 ユーキはノアに無理やり両手を掴まれ、ブラジャーのホックに手を添えられ、そしてユーキの目の前には……


「あ、あわ、ああああ………」


 ずっと見ないようにしていた。興味ないふりをしてきた。

 だけど、もう……


「ほーら、ユーくん。好きにしていいよ?」

「たーんと、召し上がれし♪」


 もう我慢はできなかった。



「う、うわああああああああああああああああああああ!!!!」


「あ♥」


「ふひ♥」



 ユーキの理性が完全崩壊し、ユーキは内に秘め、そして何年も溜め込んだものを二人にぶつけた。





 全てを吐き出し、勇者が賢者モードに入ったのは、三時間後であった―――――

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