第2話 ギャル

 それは一週間前の出来事だった。



 日本の矢理万町やりまんちょうにある『聖隷マンシール女学園』の修学旅行中での出来事だった。


 白馬乃亜はくばのあ黒木心愛くろきここあの二人はクラスメートたちと移動中のバスの中で盛り上がっていたところ、突如閃光に包まれた。


 目が覚めた二人の視界には……



「え? どういうこと! 森? なんで? ここどこ?! 皆は?」


「……いや……え? あーしら、普通にバス乗ってたよな……どーいうこと!?」



 見知らぬ森の中に居た。


「ねえ、ココア……覚えてる? 普通にバスに乗ってたよね……降りてないよね?」

「あ……ん……だよ……な? ……だった……はずだけど……」


 別にバスの中で寝ていたわけではない。

 ただ、突如トンネルの中で強烈な光に包まれたと思って、一瞬だけ目を閉じた。

 それだけである。

 目を開けたらそこは自分たち二人だけしかおらず、見知らぬ森の中に居た。


「なんで……うそ、私たち……何が起こったの? え? みんなは?」

「……わかんねーよ……つか、スマホもまったく繋がんねーし、なんなん!?」


 全てが意味不明で、自分たちの身に起こったことがまるで理解できないノアとココア。普段は笑って騒いで明るい二人も、この突然の状況に顔を青くして辺りを見渡して戸惑う。

 すると……


「ぶひ」

「ぶひひひひ」


 何かの声がした。

 そして、森の奥からガサガサと音を立てて何かがこちらへ向かってくる。


「え、誰? 何? 熊とかじゃないよね!」

「なんなん、もー、なんなん!」

「だ、大丈夫……だよ。私は小学生まで空手やってたし……だ、大丈夫!」

「ば、ばか、熊とかだったら勝てるはずねーし!」


 互いに身を寄せながら怯えて震える二人。

 すると森の奥から……


『ぶひ、ぶひひひ』

『お~!』

『うひひ、涎出てきた~』

『ひ、久しぶりの、に、人間の、お、女ぁ』


――――ッ!?


 二人は目を疑った。

 森の奥から現れたのは巨大な豚。十匹はいるだろうか。

 しかもただのブタではない。布切れのような「服」を身に纏い、しかも「二足歩行」なのである。


「え、や、やだ、なに、なに? え、ぶた、人? 着ぐるみ?」

「な、なんなん、え、これ、どこ、え、なに、なんなんっ! このゲームに出て来そうな、ザ・オークみたいなんは、なんなん!」


 それは、目を疑うような「バケモノ」であった。

 着ぐるみや何かのアトラクションなのでは……そんなことを二人が思ったそのとき、豚はただいやらしく涎を垂らして笑った。

 そして……


『人間の女じゃん……なにしてんだ~、俺らのナワバリで』

『ぶひひひ、それよりも兄貴、こいつらすげー……うまそーっ! 若い人間の女! しかも、処女の匂い!』


 明らかに豚の鳴き声ではない、言葉を豚は発した。

 英語でもない、聞いたこともない言葉。

 しかし、豚は明らかに「喋った」のだ。


「え、あ、な、なに……着ぐるみだよね!? 中は人だよね? あの、わ、私たち、ど、えっと、ぷ、プリーズヘルプミー!」

「あ、うん、あーしら、迷子! ここ、分かんなーい、アンダースタンド?」


 分からない。だが、とにかく日本語と簡単な英語で二人は叫んでみた。

 だが、豚たちは少しだけ首を傾げるだけで、二人の言葉に反応せず、それよりも二人を頭のてっぺんからつま先まで舐め回すように見て、そして……


『よくわかんねーけど、俺は白い方!』

『じゃ、俺は黒い方ッ!』

『あ、ずりー!』

『くそ、俺にもヤラせろ!』


 豚は急に走り出し、ノアとココアを押し倒した。


「ひっ、いや、なんですか、な、なんで、ヘルプ! ヘルプミー! やめ、て!」

「ちょ、何すんだし! あーしらに何を――――」


 何をする?

 そう叫ぼうとする二人の制服のボタンを豚たちは乱暴に引きちぎり、スカートも力ずくで剥ぎ取った。


「ちょっ!?」

「はっ!? ま、なん、で、え、うそ……」


 息を荒くする豚たち。

 そして二人は気づく。豚たちが人間の男たちと同じように目に見えて分かるほど、卑猥に満ちた笑みを浮かべて興奮していることを。

 

 興奮する豚。


 服を脱がされる自分たち。


 それが何を意味するのか、自分たちが何をされようとしているのか、それが分からないわけがない。


 一瞬で二人は理解した。


 自分たちはこの豚のようなバケモノに、穢されようとしているのだと。



「ひいいい、いやああああ、誰か、ったす、いやああ、こんな、きもちわるい、やめて、うぷ、くさ、い、やだああ、うそ、やだやだやだやだぁ! 誰か、誰かぁぁあ! やめてえぇ!」


「ざ、ざけんなあ、やめろ、あーしら、やめ、ざけんな! そんなきったねーの、いやだああ、やめ、やったらコロス! ぶっ殺す! だから、やめ、やめろおおおお! おねがい、やめてぇ、パパ、ママぁぁ!」



 その瞬間、二人はただただ泣き叫んだ。

 だが、どれだけな泣き叫んでジタバタしてもビクともせず、むしろ豚たちは余計に口角を吊り上げる。


『へへ、何んの言葉しゃべってるかしらねーけど、やめねーよー!』

『たっぷり、オークの子供を孕ませてやらァ!』

『おっと、抵抗はやめとけよぉ? 俺らのレベルは15、兄者にいたってはレベルは20! 貧弱な小娘の力じゃどうしようもねえよぉ!』


 そして豚たちは汚れた布切れの服をまくり上げる。

 言葉は通じずとも分かる。

 

「いや、いやだ! いやだよぉ! やめてよぉ!」

「くそぉ! くそくそくそぉ!」


 犯される。

 嫌だ。

 怖い。

 嫌だ。

 嫌だ。

 嫌だ。


「嫌だってばぁ! 離してよぉ!」

『ぐっ、こいつ暴れんな!』

「いやぁぁあああああ!」


 格好は派手。男の目を引くいやらしい格好は日常茶飯事。

 世間から「ビッチ」、「ヤリマン女学園」と自分たちの学校が呼ばれ、そこに通う自分たちもそう思われていることは自覚していた。

 実際にそういうクラスメートたちもいる。

 しかし、それでも醜い男や化物に穢されることを何とも思わない女などいるはずがない。


「いやだいやだいやだいやだよぉ! こんなの、いやぁぁあ!」

「やだよぉ、お嫁にいけなく、やだ、やだぁあ!」


 泣き叫びながら手足を必死にバタバタさせる二人。

 すると……


「やめてってばぁぁあああ!」

「はぶっおっ!?」


 次の瞬間、誰もが予想もしない出来事が起こった。


「へっ……?」


 ノアのジタバタさせていた足が、一人の豚の腹に当たった。それだけだった。

 だが、それだけで次の瞬間、真っ赤な大量の雨が周囲に降り注いだ。



「「「「「ッッッッ!!!!????」」」」」


「……え?」



 先ほどまで涎垂らして笑みを浮かべていたオークたちが固まった。

 ココアも涙を流した表情のまま固まった。

 

「こ、これ、なに? え……うぷっ、お、おえっ……ひいっ!」


 ノアが自分を犯そうとした豚の腹を蹴った。

 それだけで、ノアを犯そうとした豚の「上半身」が飛び散ったのだった。

 砕かれた肉片や臓器が一斉に飛び散り、生温かい大量の血が降り注ぐ。

 ソレが一体何かをすぐに理解できないノア。

 だが、血に染まった自分の身体や血にまみれた臓腑を目の当たりに、思わず吐いた。


『……なん……何やったコイツ!?』

『こ、こいつ、いま、こいつがヤッたのか!?」

『ばかな! ただ蹴っただけで……こいつ、まさか戦士か!?』

『くそ……よくも俺のダチをッ!』

 

 そして動揺し、同時に憤怒する豚たち。

 やがて怒りに任せて豚の一匹が、その大きな腕を振りかぶって、ノア目がけて思いっきり殴りつけようとする。


「あ、あぶな、ノアぁぁぁぁあ! ぐっ、えい!」


 蹲って嗚咽しているノアは気づいていない。

 そのとき、ノアに意識が移っていた豚たちの手が緩み、ココアは押さえつけられていた手から逃れる。そして無我夢中で、その辺にあった石を思いっきり豚に向かって投げる。

 小さな石。

 そんなもの何の意味もないが、何かしなければならないとココアは必死だった。

 だが、その投げた石は……



「え?」


『あ、飛礫!? 光り!? この石、魔力が――――』



 ココアの手元から離れた瞬間、その小石は眩い光を放ち、それを豚は掌で弾こうとするが、何と小石は豚の掌を貫き、そのまま頭部を貫いて飛んで行ってしまったのだった。



「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


「……あ……え?」



 ただ、小石を投げただけだ。

 その小石が、巨大な豚の掌と頭部を貫通。

 頭部に風穴の空いた豚は、空いた穴から砕かれた脳みそがトロトロと流れ落ち、そのまま痙攣しながら地にひれ伏した。 

 



――あとがき――


あけましておめでとうございます! 皆さま、今年もよろしく!

全ての方に幸あれ!


フォローよろしくぅぅぅぅ!

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