第34話 褒め合う二人
交番へ行き、お姉さんは警察の人へ事情を説明し始めた。
公園へ向かっていたら、目を離した隙にいつの間にかいなくなっていたこと。
女の子の名前が本田美紀ちゃんという名前であること。
お姉さんとの姉妹の子供であり、仕事の都合で預かっていたことや、今日の美紀ちゃんの髪型や服装について事細かに説明していった。
「分かりました。ではこの特徴を踏まえて、公園付近半径100メートル圏内をまずは中心に探していきましょう」
「はい……」
預かっていた身ではぐれてしまったという責任感を感じているらしく、お姉さんの表情は沈鬱だった。
「大丈夫ですよ。きっと見つかりますから」
「ごめんなさい、あなたまで巻き込んでしまって」
「いえ、こういうときはお互い様ですから」
「ありがとう」
そう感謝をされて、俺がお姉さんへ微笑みかけた時である。
ガラガラっと交番の引き戸が開かれたのは。
「すみませーん」
聞き覚えのある声が聞こえて、俺は思わず振り返ってしまう。
そこにはなんと、寺花さんがいたのだ。
「寺花さん!?」
「や、安野君!? どうしてこんなところに!?」
お互い驚きを隠せないと言った様子で見つめ合う。
とそこで、寺花さんの背後にちょこんと隠れる女の子の姿を見つけた。
「寺花さん、この子は?」
「実は、おばさんとはぐれてしまったみたいで……」
ひょっこりと顔を出したのは、五歳ぐらいの小さな女の子。
「美紀ちゃん!」
刹那、お姉さんがすぐさま寺花さんの足元に隠れていた女の子の元へと駆け寄って行って抱き止めた。
「良かったぁぁ無事でぇぇぇぇ……」
どうやら、寺花さんが交番へ連れてきてくれた女の子が美紀ちゃんだったらしい。
お姉さんは美紀ちゃんを抱き止めながら安堵の嗚咽を漏らしてしまう。
「もう美紀ちゃん、心配したんだからねぇ!」
「ごめんなさい」
「でも無事でよかったぁ……」
「このお姉ちゃんがおまわりさんの所へ行こうって言ってくれた」
そう言って、美紀ちゃんが寺花さんのことを指差した。
お姉さんは寺花さんの方を見て、丁寧にお辞儀をする。
「本当にこの度はご迷惑をおかけして。本当になんとお礼を言ったらいいのやら」
「いえ、私は当然のことをしただけですので。無事に会えてよかったです」
そこで、裏から返ってきた警察の人が美紀ちゃんの姿を見て、見つかったのだと理解した。
「その子が美紀ちゃんですか?」
「はい、そうです。本当にお騒がせしました」
「いえ、無事に見つかって何よりです。これから目を離さないようにしてあげてください」
「はい。ほら美紀、ありがとうございますって言うのよ」
「ありがとうございました?」
正直、美紀ちゃんは警察にお世話になったという認識がないので、何故お礼を言わなければならないのか分からないと言った様子で首を傾げいてた。
ひとまず、美紀ちゃんが見つかって何よりである。
交番を出て、改めてお姉さんと美紀ちゃんと向き合った。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、見つかって良かったです」
俺とお姉さんが言葉を交わすと。
「お姉ちゃんありがとう」
「どう致しまして美紀ちゃん。次はおばさんと離れないようにするんだよ」
そう言って、寺花さんが美紀ちゃんと同じ目線に屈みこみながら優しい言葉を掛けていた。
「失礼します。本当にありがとうございました」
「バイバーイ」
お姉さんと美紀ちゃんは手を繋ぎながら、二人で家路へとついて行った。
その姿を見送っていると、不意に寺花さんがこちらへ視線を向けてくる。
「安野君も美紀ちゃんの子と探してくれてたんだね」
「うん。公園でばったりお姉さんに遭遇して、迷子になったって言うから」
「そっか。こんな偶然ってあるんだね」
「ホントだね」
お互い笑いあってから、改めて俺は寺花さんと向き合う。
今日の寺花さんは、濃いブルーの刺繍オフショルダーに、水色のデニムという格好をしていた。
Vtuber桜木モモちゃんとして活動していることもあり、ピンクのイメージが強かったけれど、こういう大人びたコーディネートも彼女のスタイルの良さも相まって抜群に似合っている。
俺がそんな寺花さんの服装をジロジロ見ていたのに気づいたのか、寺花さんが恥ずかしそうに身を捩った。
「ど、どうかな……変じゃない?」
「全然変じゃないよ。むしろいつもより大人びて見えて……凄く似合ってる」
「本当に? 良かったぁ……」
ほっと胸を撫でおろす寺花さん。
どうやら、寺花さんも気になっていたらしい。
「その……安野君もいつもより大人びて見えるね」
「えっ、そ、そうかな?」
俺は自身のコーディネートを確認する。
白シャツにアッシュグリーンのカーディガンを羽織り、黒のワイドパンツという格好。
どちらかというと中学生っぽく見えないかと心配だったのだが、どうやら寺花さんからしたら大人びて見えるらしい。
自分と他人から見る服装の雰囲気って違うものなんだなとつくづく感じてしまう。
「その、か……かっこいいよ」
「あ、ありがとう……」
照れながら寺花さんに言われて恥ずかしくなってきてしまう。
お互いの間に何とも言えない空気感が漂い始める。
「い、いこうか! ちょうど待ち合わせの時間になってるし」
「う、うん! そうだね!」
沈黙を破るようにして、俺達はひとまず駅へと向かうことにす。
待ち合わせのプランは色々計画とは大きく違うものになってしまったけど、寺花さんとのデートが始まった。
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