第33話 デート当日の朝
朝、ついにデート当日を迎えた。
「大丈夫かな……」
緊張しつつ、駅へと向かっていく。
折角のデートなのに家の前で待ち合わせも味気ないということで、駅までは各自で向かうことになっている。
「それにしても……」
デートだと思ったら、全然寝れなくて、目が覚めたら朝の六時だった。
居てもたってもいられなくて、準備を進めてしまったら、手持無沙汰になってしまって、待ち合わせ時間よりもなかり早く家を出てきてしまったのである。
これだと、駅でかなり寺花さんを待つことになるだろう。
「まあ、遅れるよりはマシか」
最悪、駅前のカフェとかでコーヒーを飲みながら時間を潰していればいいだろう。
そんなことを思いながら、俺は駅へと歩いて行く。
「
駅に向かう途中、公園に差し掛かったところで、一人の女性が必死に誰かの名前を呼んで探していた。
流石に気になり、俺はその女性に声を掛ける。
「どうかしましたか?」
俺が声を掛けると、こちらを振り返ったのは、黒髪の大人びたお姉さんだった。
黄色のニットのセーターに白のフレアスカートという柔らかい雰囲気をしている。
「あのっ、このぐらいの女の子見ませんでしたか? 美紀っていう名前なんですけど」
しかし、そんな落ち着いた雰囲気とは裏腹に、お姉さんは焦った様子で俺に尋ねてくる。
「いえ、見てませんね……」
「そうですか……ほんと何処に行っちゃったのかしら……もしかして、変な事件にでも巻き込まれちゃったんじゃ」
お姉さんは悲壮感を漂わせ、顔を青白くしてしまう。
「落ち着いてください。とりあえず交番に行っておまわりさんに事情を説明しましょう。自分も一緒に探しますので」
「えぇ、そうね……こういう時は慌てちゃダメよね」
ひとまず、落ち着きを取り戻してくれたお姉さん。
交番へ行く前に、お姉さんともう一度公園付近を捜索する。
「美紀ちゃーん!」
四角になりそうな遊具の下などくまなく探してみたものの、美紀ちゃんの姿は見受けられなかった。
「とりあえず、交番に行きましょう」
「えぇ……そうね。美紀、一体どこへ行ってしまったの?」
近くの交番へと向かい、警察の人に事情を説明することにした。
一方その頃……。
◇◇◇
私、寺花美月は過去一緊張した面持ちで家を出た。
転校してきた初日よりも緊張している。
だって今日は、安野君とのデートだもん。
私は、ガラス越しにもう一度全身を確認する。
「だ、大丈夫だよね? 浮いてないよね?」
何度も不安になりながら、気づいたら待ち合わせ時間よりかなり早く家を出てしまった。
折角のデートだから、安野君とは駅で待ち合わせすることになっている。
家からでもよかったのだけれど、少し心の準備を整える時間が欲しかったのだ。
私が緊張した面持ちで歩いていると、電柱付近にポツンと佇む一人の女の子の姿が目に入る。
見た感じ、幼稚園ぐらいの子供だろうか?
薄手の兎のマークが入ったブラウスに、黒地のズボンを履いている。
辺りにご両親の姿は見受けられない。
私は心配になって、女の子の元にしゃがみ込んで目線を合わせた。
「こんなところで何してるの?」
「おばさんが迷子になった」
「あらら、おばさんが迷子になっちゃったの?」
本当は、この子の方が迷子になっているのだろうが、あくまで子供の考えに合わせてあげる。
「私が目を離したらどっかに行っちゃった」
「おばさんはどこでいなくなっちゃったの?」
「あっちの公園」
そう言って、女の子は駅の方にある公園の方を指差した。
「そしたら、もしかしたら、公園の中にいるかもしれないよ。お姉ちゃんが一緒に探してあげるよ」
「いい。一人で探すから」
「ダメだよ! もしそれでまたいなくなっちゃったら大変なことになっちゃうもん」
「でも……」
「こういう時は、ちゃんとお姉さんを頼って、お願い」
私が手を合わせて頼み込むと、女の子はコクリと頷いてくれた。
ひとまず納得してくれたみたいで、私はほっと胸を撫でおろす。
「私は寺花美月っていうの。あなたの名前は?」
「……美紀」
「美紀ちゃんね! それじゃあ、美紀ちゃんのおばさんを探してあげるね」
「うん」
「それじゃ、公園に行ってみようか」
私が手を差し伸べてあげると、美紀ちゃんはちょこんと私の手を掴んできてくれた。
そのまま手を繋ぎながら、おばさんとはぐれたという公園へと向かっていく。
早めに家を出て正解だったかもしれない。
まさかこんなアクシデントに出くわすなんて思いもよらなかったから。
私と美紀ちゃんは、数分で公園へと到着する。
しかし、公園の入り口から見渡しても、美紀ちゃんのおばさんと思しき人は見受けられない。
「いる?」
「ううん、いない……」
「そっかぁ……」
一体どこへ行ってしまったのだろうか?
「私がいけないの。お母さんがお仕事で大変だから、おばさんの家でいい子にしてなきゃいけなかったのに、公園に遊びに行きたいってわがまま言ったから」
美紀ちゃんは今にも泣きだしそうな表情になってしまう。
「そんなことないよ。きっとおばさんも美紀ちゃんの子と心配してるはずだから、とりあえず、おまわりさんの所に行ってみよう。もしかしたらおばさんもいるかもしれないから」
「うん……」
美紀ちゃんは鼻を啜って鳴くのを必死に堪えた。
「泣かないで偉いよ」
私はつい、美紀ちゃんの頭を撫でてしまう。
美紀ちゃんはくすぐったそうに身を屈めた。
落ち着いたところで、私はもう一度美紀ちゃんへ手を差し伸べる。
「それじゃ、行こうか!」
美紀ちゃんは何も言わずに私の手を掴んでくる。
その手は心なしか震えているように感じた。
きっと、美紀ちゃんも不安で仕方がないのだろう。
早く見つかってくれるといいんだけど……。
そんなことを思いながら、私は近くにある交番へと向かうことにした。
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