第35話 電車内での出来事
駅へと到着してホームへ上がると、すぐに電車が入線してきた。
休日にも関わらず、電車内は多くの人で混雑しており、俺と寺花さんはやっとのことでドア付近に無理やり乗り込んでいく。
ドアが閉まり、電車がゆっくりと動き始める。
人口密度が凄いので、俺と寺花さんも必然的に距離が近くなってしまう。
「大丈夫寺花さん? 狭くない?」
「うん、平気。心配してくれてありがと」
寺花さんを気遣いつつ、俺は他の乗客を背中でブロックする。
何とかスペースを確保しつつ、ドアから見える車窓を見つめていた。
寺花さんも向かい合うのが恥ずかしいのか、顔を車窓へと向けている。
住宅街を縫うようにして、電車は目的地へと進んでいく。
外の同じような家々が流れる景色に飽きてしまい、俺は改めて寺花さんをまじまじと観察してしまう。
まさか、こんな大胆な服を着てくるとは思っていなかった。
大事な部分は隠されているとはいえ、白くて滑らかな肩もさることながら、くっきりと見える鎖骨から首筋にかけても綺麗で、思わずごくりと生唾を飲み込んでしまうほどに美しい。
「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」
「へっ⁉ いやっ、何でもないよ!」
どうやらジロジロと観察しすぎてしまったらしい。
寺花さんがキョトンと首を傾げてくる。
俺は咄嗟に視線を逸らして、車窓へ視線を戻した。
電車は小刻みに揺れながら目的地へと進んでいく。
線路沿いにそびえ立つ住宅が次々に流れるように通り過ぎていって、時折踏切の音が聞こえて来てはすぐに遠ざかって行った。
その時である。
突如電車が急速に急ブレーキを掛けたのは……。
「おっと……!」
突然の揺れに、俺はバランスを崩してしまい、ドアに手をついてしまう。
そのままキィーっとブレーキ音を立てながら、電車はゆっくりと駅でもない線路上で停車してしまった。
電車が完全に停止してしまったところで、車掌さんからアナウンスが流れる。
『只今、非常停止ボタンが押されたため緊急停車致しました。安全の確認が取れ次第運転を再開いたします。発車までしばらくお待ちください』
どこかの駅で緊急停止ボタンが使用されたらしい。
「大丈夫かな? すぐに運転再開すればいいんだけど……」
俺がそんな心配をしつつ、ドア上にある路線図へと目を向ける。
目的地まであと三駅ほどあるだろうか。
「あの……安野君」
「ん、どうしたの寺花さ……」
とそこで、寺花さんから名前を呼ばれて俺が視線を向けると、俺はとんでもないことに気が付いてしまった。
バランスを崩してドアに手をついたままになってしまっていたので、まるで俺が寺花さんに壁ドンをしてみるみたいな体勢になってしまっていたのである。
寺花さんは顔を真っ赤にしてモジモジと身体を悶えさせていた。
「ご、ごめん!」
「ううん、平気だよ」
咄嗟にドアから手を放す。
二人の間に、気まずい空気感が流れてしまう。
『お待たせいたしました。安全確認が取れましたので、運転を再開いたします』
俺達の沈黙を破るようにして、車掌さんから運転再開のアナウンスが入った。
思ったより運転見合わせが長引かなくて良かったと胸を撫でおろす。
その後、電車は順調に目的地まで俺達を運んでくれたのであった。
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