第48話 ユートVSボーゲン(1)

「誰だお前は⋯⋯」


 俺達の目の前にいる男⋯⋯いや、男と言っていいのかわからない奴がそこには立っていた。

 身長は二メートル前後、筋肉質の肉体を持っているが、体躯の色が真っ黒だ。そして何より額の部分には人にはない角がある。


「とても冷たい目をしています」


 リリアの言うとおり、目の前の生物は視線が合うだけで恐怖に陥れるような、人間とはとても思えない目をしていた。


「まさかお前はボーゲンか」


 だが姿が違えどこの魔力には覚えがある。白ではなく黒の魔力⋯⋯間違いなくボーゲンだ。


「ふ⋯⋯ふっはっはっは!」


 何がおかしいのか目の前の奴が高笑いし始めた。この屍が横たわる戦場には似つかわしくない光景だ。


「まさかこれ程の魔力を持つものがいたとは! 今のは痛かった⋯⋯死が見えたぞ!」


 痛かったという割には顔が笑っている。何なんだこいつは。


「ボーゲン?」

「気安く私の名を呼ぶな!」


 やはりこいつはボーゲンのようだ。だが何故姿が変わっているんだ。


「一瞬倒されたと錯覚する程の一撃だった。虫けらどもも役に立つではないか」

「まさかお前は兵士を盾にしたのか!」


 何故かボーゲンがいた位置に兵士がたくさんいた。フォースゲイザーを防ぐために、兵士達を犠牲にしたならおかしくない。


「それがどうしました? この虫けら達は私の役に立って死にました。これほど名誉なことはありませんよ」

「自分の仲間も虫けらだと? もしかしてその姿が関係しているのか?」

「そのようなことをあなたに言う必要はありません。ただ強いて言うならあなた達とは存在そのものが違う⋯⋯私は人間を超越した崇高な生物だということです」

「お前は人ではないと言うのか」


 言う必要はないというわりには、ベラベラと喋ってくれる。

 人間を超越した存在? この世界にはエルフやドワーフなど別種族がいるが、人族とは同等の存在だ。中には他種族を見下す奴もいるが⋯⋯


「もしかしてあなたは⋯⋯魔族ですか」

「魔族?」


 聞いたことのない種族だ。ボーゲンはその魔族という種族なのか?


「忌々しい聖女の一族なら知っていてもおかしくないか⋯⋯そのとおりです。はあなたの先祖によって地獄に落とされた魔族です」

「地獄に落とされた? どういうことだ?」


 俺はボーゲンを警戒しつつ、事情を知っていそうなリリアに問いかける。


「お母様から聞いたことがあります。私の先祖が人類に仇なす魔族を排除したと」

「そうのとおりです! だから私はあなたを初めて見た時から、どう殺してやろうかそれだけを考えていました。そしてとうとうその時が来たのです!」


 ボーゲンはこちらに向かって⋯⋯いや、リリアに向かって殺意を向けてきた。

 これはすごい殺気だ。これは気を抜いたら恐怖で戦えなくなってしまうぞ。


「うぅ⋯⋯」


 リリアはボーゲンの殺気に堪えることが出来ず、呻き声を上げていた。


「リリア」


 俺はリリアを守るように二人の間に立つ。


「盛り上がっている所悪いが、そんなことは俺が許さない。ここから先に行きたいなら俺を倒してからにしろ」

「魔力が高い程度で私に勝てると思っているのですか?」

「なら試してみるか?」


 先手必勝。俺はボーゲンが剣を構える前に接近し、脳天目掛けて剣を振り下ろす。

 だが残念ながらボーゲンは首を捻り、脳天への直撃は避けられてしまった。しかし剣は肩に食い込み、ボーゲンにダメージを与えることに成功する。

 するとボーゲンの肩から青い血が流れ始めた。


「本当に人間とは違う生物なんだな。だがどんな生物だろうとリリアに手を出すなら排除するだけだ」


 それにしても肩を斬られて声一つ上げないなんて。普通なら致命傷になりかねない傷だ。

 だがボーゲンは傷など初めからなかったかのように、剣を手に取り攻撃している。


「くっ! なかなかに鋭い」


 人族を見下し、傲慢な態度を取るだけはあり、ボーゲンの剣技は以前戦ったザイードより上だった。

 油断したら一気に押しきられてしまいそうだ。

 だが裏を返せば油断しなければやられることはない。

 俺は再び致命傷を与えるため、ボーゲンの攻撃を剣で弾く。そしてがら空きとなった心臓に突きを放とうとするが。


「なんだと!」


 目の前で驚愕の出来事が起きたため、思わず後ろに後退するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る