第47話 魔力の衝撃波

「ふっふっふ⋯⋯この攻撃をかわすことは不可能だですよ」


 ボーゲンのいう通り、前後左右から矢と火、水、風、地の四属性の魔法の嵐がこちらへと向かってくる。

 唯一逃げ道があるとすれば真上だが、生憎と空を飛ぶことなんて出来ない。


「ユート様!」


 リリアは恐怖からか、目を閉じてしがみついてきた。

 結界魔法も使えない今、魔法使いではこの矢と魔法を防ぐことは出来ないだろう。

 そしてどんなに剣の腕があろうと、この矢と魔法を斬り落とすことは普通なら無理だ。

 だけど俺の魔力は無理だと言っていない。


「フォースゲイザー!」


 俺は力強い言葉と共に、魔力を込めた剣を地面に突き刺す。

 すると俺を中心に魔力の衝撃波が放射状に広がっていく。


「バカな! 矢と魔法が弾かれただと!」


 ボーゲンの驚きの声が聞こえるが、俺の攻撃はその程度ではない。魔力の波動は矢や魔法だけではなく、ボーゲンや兵士達を次々と飲み込んでいく。


「逃げろ!」

「無理だ! 追いつかれる!」


 兵士達は魔力の衝撃波から逃れようとするが、そのスピードに勝てる訳がない。そして全ての兵士達が魔力の衝撃波に巻き込まれると、この場に立っているのは俺とリリアだけだった。


「す、すごいです! ユート様すごいです!」


 リリアが倒れた兵士達の様子を見てはしゃいでいる。

 ふう⋯⋯何とかなったか。

 俺は使、自分を中心に魔力の衝撃波を飛ばすことが出来る。そのため、フォースゲイザーは取り囲んでいる兵士達を倒すのには、うってつけだった。フォースゲイザーは相手を倒すことも出来るし、防御としても使える有用な必殺技だ。欠点といえば魔力の消費が激しくて連発出来ないのと、洞窟などの狭い空間では技の威力で崩落しかねないということだけだ。


「とりあえず何とかなったな。リリア⋯⋯遅くなってごめん」

「私⋯⋯もうレガーリア王国に戻るしかないと⋯⋯自由のない生活に戻るしかないと思ってました。でも⋯⋯でも⋯⋯心の中ではユート様助けに来て下さると信じていました」

「俺は⋯⋯その⋯⋯リリアの騎士だから。だから⋯⋯どこにいても駆けつけるよ」


 俺は顔を赤くしながら明後日の方を向き、言葉を口にする。

 さすがに少し照れ臭いセリフなので、リリアのことを正面から見ることが出来ない。


「ユート様!」


 リリアが胸に飛び込んできたため、俺は優しく抱きとめる。

 良かった。俺は大切なものを守ることが出来たんだ。

 腕の中の温もりを感じながら、俺は改めてリリアを救い出せたことに安堵する。


「そ、それじゃあノアの村に戻ろうか」


 それから三十秒程⋯⋯いや、実際にはもっと長かったかもしれないし短かかったかもしれないが、いつリリアを離せばいいのかわからなくなり、俺は上ずった声でリリアに話しかける。


「そ、そうですね」


 そしてリリアも俺と同じだったのか、じゃっかん挙動不審な様子で、俺の元から慌てて離れた。


「村長さん達を安心させてあげなきゃ」

「はい」


 そして俺達は倒れている兵士を乗り越えようとするが、不意にリリアが立ち止まった。


「この方達はもう⋯⋯」


 死んでいるのかという問いに俺は頷く。

 ボーゲンや兵士達はリリアが逃げたら報復として、村を襲う可能性があった。お世話になった村長さん達に害が及ばないようにするには、こうするしかなかった。

 それにもしまた村の人達が人質になったら、リリアは従わざるを得ないだろう。だからリリアに危険が及ぶ可能性が少しでもあるなら、俺はそれを排除するだけだ。


「この兵士達は村のミスリルも盗んでいた。悪人を見過ごすことは俺には出来ない」

「ユート様⋯⋯ありがとうございます」


 暗にリリアのせいで命を奪った訳じゃないと伝えたのだが、リリアは自分のせいだと思うだろうな。


「とにかく今は早くノアの村に戻って、村長さん達を安心させてあげよう。きっとリリアのことを心配しているよ」

「そうですね」


 屍となった兵士達を見ていると、良くないことを考えてしまいそうになるので、俺は早くこの場から離れることを提案する。


「ん?」


 俺達兵士達を乗り越えてノアの村方面へと向かうが、一部おかしな場所があった。

 何故かその場所だけ、屍となった兵士達が積み重なっているのだ。


 衝撃波で偶然この場所に兵士が吹き飛ばされたのか?

 いや⋯⋯違う!

 俺は神経を研ぎ澄まして辺りの様子を窺う。

 するとある所から微かだが魔力を感じることが出来た。


「リリア下がって!」

「えっ?」


 俺はリリアの手を取り、自分の背後へと移動させる。


「ユート様⋯⋯何かありましたか?」

「どうやらまだ生きている奴がいるみたいだ」


 さっき言っていたこととは違うことをしているので、俺も気づくのが遅くなってしまった。


「虫けら相手に魔力は隠さないんじゃなかったのか?」


 俺は奴のプライドを刺激する言葉を投げ掛ける。すると兵士達が重なって山になっていた場所が突如爆発した。


「きゃっ! いったい何が⋯⋯」


 爆発の跡地には一人の男が立っていた。

 だがその男は俺が予想していた人物と、容姿がまるで違ったのだ。




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