第46話 救出
俺は矢を放った後。素早く二本目、三本目、四本目、五本目と続けて矢を天高く射る。
「ぎゃっ!」
「敵襲!?」
そして放った矢が、上空から先頭にいた兵士達に命中していく。
兵士達は上から矢を食らったため、どこから攻撃が来たのかわからないでいた。
作戦成功だ。
先頭付近にいる兵士達は突然の襲撃に驚き、混乱している。
後は異質な魔力を持つものがどちらに行くか。
もし集団の先頭に向かえば、リリアを救出に行く。逆にその場を動かなかったり、リリアの方に向かうなら残りの一本の矢を奴に放ち、その間にリリアを連れ出す。
俺は状況を把握するため、木の上から異質な魔力を持つ者を注視する⋯⋯すると奴は集団の先頭へと向かった。
いまだ!
俺は木から飛び降りて、まずは馬車の側にいた四人を剣で斬る。まだ他の者達は状況が飲み込めていない。
リリアを救い出すチャンスだ。
俺は馬車のドアを素早く開くと⋯⋯
「ユート様!」
リリアが驚いた様子で声を上げる。
「リリア⋯⋯良かった無事で」
「助けに来ていただきありがとうございます。ですが私は⋯⋯」
「大丈夫。俺が何とかするから」
「ユート様⋯⋯」
俺はリリアに向かって手を差し伸べる。
するとリリアは一瞬手を伸ばすのを躊躇したが、俺が頷くと胸に飛び込んできた。
「ユート様ユート様! 私、もう二度と会えないと思っていました! でも、でも⋯⋯ユート様はまた助けに来て下さいました!」
「リリアが何度籠の鳥になろうと、必ず俺は救いに現れるさ。とりあえず今はここから脱出しよう」
「はい!」
俺はリリアと馬車の外へと向かうが、既に周囲は兵士達に取り囲まれていた。
「貴様! 聖女をどこに連れていくつもりだ」
「よくも仲間を殺してくれたな!」
さすがに何もせず待っててくれるほど呆けてはいないか。
それにしてもすごい数だな。百人程の人に囲まれるなんて今まで経験したことがない。
しかも全員が俺に対して殺気を向けている。
「この人数を相手に戦いを挑むとはバカなのか」
「バカだろうがなんだろうが関係ない。この男を早く捕らえろ」
俺達を取り囲んでいる円形の輪がジリジリと狭まってくる。こちらに有利な点はリリアがいるということだろう。
聖女であるリリアを傷つける訳にはいかないのか、兵士達は一気に襲いかかることが出来ないでいる。
そのためリリアを人質にすれば逃げられるかもしれないが、そんなことは絶対にしたくない。
何故なら俺の目的は⋯⋯
「ユート様⋯⋯」
俺は右手で剣を抜き、左手でリリアを抱き寄せる。
「くっ!」
「卑怯な!」
兵士達は今の俺の行為を見て、リリアを盾に取っていると勘違いしているのか、見当違いなことを口にする。
「たった一人の女の子を百人で拐う奴らに言われたくないね。それに子供達を人質にとったらしいじゃないか。そんな奴らが卑怯って⋯⋯笑うしかないな」
「貴様!」
逆ギレするなんて情けない奴らだ。
本当のことを指摘されて、兵士達の怒りは頂点に達したようだ。
「待て!」
突然、今にも襲いかかりそうな兵士達を制止する声が聞こえてきた。
「ボーゲン様」
兵士達がボーゲンという名を口にすると、俺達を取り囲んでいた輪が一部崩れていく。
そして崩れた先に現れたのは⋯⋯あの異質な魔力を持つ男だった。
こいつがボーゲンか。
子供達を人質に取り、リリアを拐った奴。
俺は怒りのあまり、殺気をボーゲンへと放つ。
「ほう⋯⋯なかなかすばらしい殺気ですな。さすが武闘祭で優勝しただけはある」
どうやら俺の素性は調べているらしい。
「それはどうも。そっちは魔力を隠すこともせず、威嚇のつもりか?」
本来魔力は隠す者が多い。それは自分が魔闘士や魔法使いであることを隠すためだ。魔力を込めた剣の一撃や魔法は不意打ちで食らえば、致命傷になる。
しかしこの男は魔力を全く隠す様子はない。おそらくそれだけ自分の力に自信があるのだろう。
「あなたは虫けら相手に魔力を隠しますか? それと同じことです」
「それは暗に俺達が虫けらだと言いたいのか?」
「そう取っていただいて構いません」
「このやろう」
俺はともかくリリアを虫けら扱いするのは許せん。必ずそれ相応の報いを受けてもらうぞ。
「さて、とりあえず聖女は渡してもらいましょうか」
「嫌だ⋯⋯と言ったら」
こいつらの狙いはリリアだ。少なくともリリアの側にいれば大掛かりな攻撃はしてこないだろう。
「そうですか⋯⋯でしたら聖女もろともあなたも死ぬがいい」
「何!?」
ボーゲンが手を上げると兵士達は俺達から距離を取り、弓と杖を構える。
まさか矢と魔法で殺すつもりなのか!
「お前達は聖女を無事に王国へ連れていくことが目的じゃないのか?」
「確かにライエル王子からはそのような命を受けています。ですが
「我が主だと⋯⋯」
ライエルは腐ってもレガーリア王国の第二王子だ。そのライエルより上の者と考えると⋯⋯
「お前は王や第一王子の命令で動いているのか」
「王や王子? そのような下等生物の命令をこの私が聞くと思っているのですか?」
王や王子が下等生物だと! それ以上の地位を持つものなど想像できない。いったいボーゲンは誰の命令で動いているんだ。
「ちなみに聖女は結界魔法は使うことは出来ませんよ。虫けらを守るために、大量の魔力を消費してしまいましたからねえ」
リリアは俺の方を見て、悔しそうに頷く。
そういえば村の人達を守るために結界魔法を使ったと村長さんが言っていたな。
今のリリアは、魔力の消費量が多い魔法を使うことは出来ないということか。
「お喋りはそろそろ終わりにしましょう。聖女の近くにいると頭痛がして気分が悪くなります。出会った時から殺したくて仕方なかったんですよ」
「頭痛? どういうことだ」
「お喋りは終わりと言ったはずです⋯⋯死になさい」
ボーゲンが上げた手を下げると、兵士達から矢と魔法が一斉にこちらへと放たれるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます