第49話 ユートVSボーゲン(2)
「き、傷が治っています!」
リリアの言うとおり、先程ボーゲンにつけた肩の傷が消えている!
「何故だ! 回復魔法を使ってないはずだ!」
理解出来ない。そのまま放っておけば死に至る傷だったはず。それが一分もしないうちに消えてしまったのだ。
おかしい。どんな方法を使ったんだ。さっき斬りつけたのは幻覚だったのか?
とにかくもう一度傷をつければわかるかもしれない。
俺はボーゲンに向かって剣を横一閃になぎ払う。そしてボーゲンの剣を弾き、隙が出来た所を狙って左腕に剣を振り下ろす。
すると見事ボーゲンの左手首を斬り落とすことに成功した。
「勝負あったな。その腕ではこれ以上戦うのは不可能だろう。だがリリアを拐ったお前を許す訳にはいかない。このまま死んでもらう」
俺は手首がなくなったボーゲンを容赦なく攻め立てる。しかしボーゲンは防御に徹しているためか、致命傷を与えることが出来ないでいた。
「くっくっく⋯⋯それで勝った気でいるのですか?」
沈黙を保っていたボーゲンが、不気味な笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「勝った気も何もその手でどうやって戦う? そのまま出血多量で死ぬのがお前の末路だろ」
「手? 私の手ならここにありますが」
そう言って余裕の笑みを見せながら、ボーゲンは左腕を天高く上げる。
するとそこには斬り落としたはずの左手首があった。
「どういうことだ! 手首はそこにあるのに⋯⋯」
地面には俺が斬り落とした手首が転がっている。だがボーゲンの左手首はまるで最初から斬られていなかったかのように復元していた。
復元? まさか!
「どのような時も人の絶望した姿というのは最高ですね。残念ですがあなたの攻撃は私には効いていませんよ」
確かに
「リリア。ボーゲンは回復魔法を使っていたか?」
俺にはわからなくても、魔法を使えるリリアなら気づいた点があるかと思い問いかける。
「いえ、あの方は魔法は使用していません」
「やはり魔法は使ってないか」
となるとやはりボーゲンは⋯⋯
「再生しているのか」
「さすがにこれだけ見せれば虫けらでもわかりますか。私の魔力の特性は再生です。今の魔力値が下がったあなたでは、私を倒すことは出来ませんよ」
今の言葉からすると、魔力を込めた攻撃ならボーゲンを倒せるということか。
しかし今俺はフォースゲイザーで魔力を消費してしまっている。
「ちなみにこの左手も斬られてダメージを受けているように見えますが、実際にはそれほどの痛みを感じてはいません。私達魔族には通常の攻撃は効きませんから」
なるほど。だから俺が肩を斬ろうが、左手首を斬り落とそうが平気な顔をしていられるということか。
それにしても魔族というのは厄介な種族だ。ボーゲンの言うことが本当なら魔族を倒すには、魔闘士か魔法使いでないと無理だということになる。しかも生半可な魔力は効かないし、ボーゲンには再生能力がある。そうすると俺に出来ることは⋯⋯
「まさか逃げようなどと考えてはいませんよね」
「さあ⋯⋯どうかな」
「もし逃げたらあの村の住人を殺しますよ」
やはりそうきたか。どうしてもこの場でリリアを殺したいらしい。
だけどそれだけはさせる訳にはいかない。しかし村人達を見捨てることも出来ないため、やれることは一つしかない。
ボーゲンと戦うしかないのだ。
だが本当に俺の剣が効かないのか? 先程ボーゲンは手首を切られても
それに頭や心臓などの急所に攻撃を食らえば、さすがにダメージが入るのではないか?
まだ諦めるのも逃げるのも早い。
「それならお前を倒すしかないな」
俺はボーゲンの心臓を狙って剣を突き刺す。
ボーゲンは油断していたのか、防御することもかわすことも出来ないでいた。
「もらった!」
だが俺の剣が胸を突き刺す瞬間。何とボーゲンは俺の攻撃を無視して相討ち覚悟で剣を繰り出してきた。
「ぐっ!」
すると俺の剣は見事ボーゲンの心臓を貫いたが、ボーゲンの剣も俺の左肩を貫いていた。
「ユート様!」
「まさか捨て身で攻撃してくるとは⋯⋯」
「すぐに治療します! 癒しの光よ、我が前に傷つきし者を治したまえ⋯⋯
リリアが魔法を唱えると光が放たれ、俺の肩の傷が治っていく。
「ありがとう」
さすが聖女の回復魔法だ。あっという間に傷が塞がった。
だがそれにしても厄介なことを。
今の攻撃で俺はダメージを負ったが、ボーゲンは無傷のようだ。俺が刺した心臓付近の傷は既に再生しており、なかったことになっている。
さすがにボーゲンレベルの相手に相討ち覚悟で攻撃をされると、かわすのは至難の業だ。
これではこちらの攻撃が封じられたようなものだ。
そしてこの後、何度か急所に攻撃を当てることに成功するが、ボーゲンにダメージを与えることは出来ず、ただこちらが傷つき魔力を消耗するだけだった。
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